医療業界トレンド解説 No.1 医療業界トレンド解説 No.1 (オンライン版)
1999/12/01 発行

オーダリングシステムと電子カルテ

 
*今号の文章は次の1.2.のページの内容を下敷きにして書きました。
 (イラストも勝手ながら借用させてもらっています)
 また、3.4.のHPも参考になるでしょう。

1.株式会社コスミック http://www.cosmic.co.jp/
2.日本保健医療情報システム工業会 http://www.jahis.gr.jp/
3.日本医療情報学会 http://www.osaka-med.ac.jp/jamiM.html
4.電子カルテに関するリンク集 http://www.sv.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~obgyn/docs/ec.html

◎オーダリングシステムとは/その効果

doctor1 オーダリングシステムとは、これまで職員が手書きしていた処方箋、検査伝票等を直接コンピュータに入力(発生源入力)することにより、それ以降の業務の省力化・簡素化を行うためのシステム。オーダリングシステムの導入により、次のような効果が期待できるとされている。

1.患者の待ち時間の短縮
医師の指示を回線を介し、直接検査機器や処方箋発行機などに送ることにより、これまで人手が介在するためにかかっていた時間を短縮する。
また、医事会計システムと連動することにより、 会計での待ち時間も短縮する。
2.省力化
医師が何かを指示した際に、その指示は該当の部署に届ける必要があるわけで、これまでは職員や患者が運んでいたが、その必要がなくなる。伝票等の運搬の手間が減る分だけ患者へのケアやサービスに充てることができる。
3.事故を未然に防ぐ効果
検査システム、放射線システムなどと連動することで転記ミスが無くなる。転記ミスを防ぐためにこれまで行っていたチェックの手間(時間)も軽減できる。
4.準備作業などの軽減
検査などの場合、検体容器のラベル印刷が自動でできる。
また、オートラベラーを使えば容器を準備してラベルを貼り付ける所まで自動化できる。
5.過去の情報との連動
診察室のコンピュータで過去の検査結果や投薬内容などを検索、表示して比較検討を行う事が可能。また、グラフを表示したり、それを使って患者に説明するなど、インフォームド・コンセントのツールとして利用できる。
doctor2 このように、オーダリングシステムは病院の人の流れや情報を制御するシステムであり、医師はその流れのスタート地点となる。

◎電子カルテとは/オーダリングシステムとの違い

通常、電子カルテと呼ばれているシステムは、一見するとオーダリングとよく似ている。過去に患者に出した薬や検査の情報がストックされており、画面上で検索する事ができる点などはそっくりである。しかし、意味合いは大きく異なる。電子カルテの場合は「患者に対して行った医療行為」を記録するものであるのに対し、オーダリングは「指示を出すために医療記録を保持している」に過ぎない。つまり、電子カルテではデータ(記録)そのものが目的なのである。

※ちなみに、上で言うところのデータ(記録)とは、対象として次のようなものを指す。
患者基本情報/医事情報/病名・症状・病歴等/検査結果/診断画像情報/計画情報(オーダー、治療計画、看護計画)/計画実施情報/サマリー情報/その他
だから例えば、オーダリングシステムの場合だと、データを修正したい場合、普通に修正するだけで良いのに対し、電子カルテでは「誤りも記録の内」なので、たとえ医師本人であっても、過去のデータを消すことは許されない。たとえ修正を行っても、「修正した」という記録を残し、また修正前の情報も全て残る必要がある。そうしないと「カルテの改ざん」になってしまう。

また、手書きのカルテでは医師の筆跡など、誰が書いたのか判別する手だてがあるが、コンピュータ上ではそういうわけにいかないので、医師の認証も厳密に行う必要がある。

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◎電子カルテシステムが意図する効果

日本保健医療情報システム工業会(JAHIS)によれば、電子カルテシステムが意図する効果として、以下のように大きく分けて4種類、16項目をあげている。

1 医師・スタッフの臨床診療支援

(1)診療現場での患者情報の迅速適切な表示による臨床診療支援  *患者病態の時系列把握、診療指針の検討  *カンファレンスでの類似症例検索比較、過去の治療効果把握 (2)電子教科書、診療プロトコルを併用しての臨床診療支援  *知識ベースによるスタッフの意思決定の支援  *投薬、検査オーダーのチェック、リマインダーによるアドバイス  *医学用語辞書、MEDLINE等の文献、薬剤添付文書の即時参照  *患者病態に合わせて、インターネット等による外部知識ベースの即時参照 (3)診療現場における患者指導  *インフォームドコンセントへの活用  *病態の説明、生活上の注意事項の説明、予後推定の説明 (4)カルテ記載の標準化によるデータベースの質的向上  *所見、プロブレム、リマークなど必須情報の取得忘れの防止 (5)施設内のチーム診療スタッフ間のデータ共有  *医師間、医師、ナース、薬剤師、療法士等の間でそれぞれが最も見易いビューワーのもと   で患者状況を把握しあう。  *見易い文字のカルテ書式印刷、管理者用フォーム印刷  *緊急時に外出先担当医師からのデータアクセスによる緊急対応 (6)複数施設間のデータ交換  *紹介状作成、オンライン、オフラインによる患者データ交換による病診連携、病病連携、   バーチャルホスピタルの実現  *テレラジオロジー、テレパソロジー、遠隔医療の実現。   (注:この効果の実現のためには、データ交換フォーマットの標準化、用語の標準化、    セキュリティ対策の標準化が必須であり、またこれを運営する社会システムとこれを    許容する社会的コンセンサスが前提となる)

2 患者サービス向上

(7)インフォームドコンセントへの適切な支援  *患者にわかりやすい病態の説明、生理、病理、治療指針の説明。  *患者にわかりやすい薬理、検査結果の説明。  *治療種類、副作用、リスク、期待予後など自己決定のための情報提供。  *健康管理に必要かつ正確な情報開示による健康への自己認識を促す。  *医療従事者との対話の拡大。 (8)カルテの情報の一元管理による不適正診療の防止  *重複処方、配合禁忌チェック、病態による投与禁忌チェック。  *重複検査チェック、過剰検査への警告。  *リマインダーによる検査忘れなどの防止。 (9)患者の日常生活、嗜好制限などのわかりやすい指導  *ビジュアルな画面やイラストによる説明、対話的アドバイス。 (10)生涯一貫したヘルスケア  *個人の保健、医療、福祉に関する履歴情報を一貫して管理し参照することにより、個人特   性に応じたヘルスケアが可能となる。

3 臨床データベースの有効活用

(11)臨床医学研究・医学教育への活用  *診療看護技術の標準化の支援  *診療プロトコル検証、知識ベースの作成  *具体的には、検査、投薬、処置、術式などの効果検討、予後検討、QOL検討、副作用、   後遺症の検討など医学医療の核心課題から、医師個人の経時的傾向、患者の満足度、主観   情報をも含む幅広い研究および教育への活用が考えられる。 (12)基礎医学研究への活用   (略) (13)病院経営への活用  *医師、スタッフ、患者病態、診療方法、治療期間、コスト、予後、患者満足度、機材使用   度、診療時間、入院日数、診療報酬、職員配置、給与レベル、建物構造、薬剤、試薬、治   療材料、給食等の物流条件、予約方法、在庫量、患者待時間など、多くの病院経営に関係   する条件が診療の現場でいかにあるのか、を診療情報の集積と対比し、その関係を解析す   る。 (14)疫学的研究への活用   (略) (15)医療政策の立案、評価、医療行政への活用   (略)

4 ペーパーレス化

(16)ペーパーレスまたはレスペーパーを実現することにより、省スペース、貸出紛失防止、   迅速取り出し(省力)を図る。   対象物は、いわゆるカルテ、検体検査報告書、各種オーダー伝票診断書、承諾書、紹介   状、生理検査チャート類、温度表手術記録、病理検査報告書、看護記録、退院サマリ、   生検剖検記録内視鏡等写真、X線フィルム、メモ、各種証明書など多岐にわたる。


もっとも、以上あげた利点のすべてを実現する必要はない。むしろ、導入を検討する病院は、何のための電子カルテか、目的と目標を明確にし、その上でシステム設計にあたるべきだろう。
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