医療業界トレンド解説 No.2 医療業界トレンド解説 No.2 (オンライン版)
2000/01/04 発行

EBM(Evidence-based Medicine)

◎EBMとは

臨床医学の新しい手法として近年さかんに脚光を浴びているEBM(Evidence-based Medicine)とは、直訳すれば「根拠に基づく医療」のことである。何だか分かったような、分からないような言葉だ。「根拠に基づく医療」が新しい考え方であるなら、これまでの臨床には「根拠」がなかったのか?

EBMでいう根拠(Evidence)とは実は医学論文、それも臨床研究による知見のことである。詳しく言うと、「2群間(ex.治療群と非治療群、プラセボ群など)を比較した臨床研究から得られた患者の転帰(診断確定、副作用、死亡など)に関する情報」(1)のこと。臨床現場で直面する様々な問題について、従来はしばしば単なる直観や系統立たない臨床経験、身近な権威者の意見、病態学・生理学からの推測といったものに頼ってきた面がある。このような状態を克服するため、臨床に疫学的手法を取り込んだのがEBMであると言える。

聴診器EBMがげんざい脚光を浴びるようになった背景としては、第一に上にあげたような臨床研究のデータが増えてきたこと、そしてそれが教科書に反映するばかりでなく、データベース化され、CD−ROMやインターネットを通じて手軽に検索できる環境が整ってきたことがあげられる。が、一方、私見によると、日本でのEBMブームには別の背景がある。すなわち、本トレンド解説シリーズで何度も述べている「医療の質」という観点からの注目である。さらに言えば、医師のプロフェッショナル・フリーダムの名のもと、往々にしてブラックボックス化しがちであった「医療の適切性」を評価するための武器としてEBMに期待する向きがあるようなのだ。つまり介護保険制度における要介護認定システム導入と同じく、このEBMブームには医療保険の保険者や行政担当者のルサンチマン(=恨み)が反映しているのではないだろうか?

◎EBMのプロセス

それはさておき、EBMがこれまでの医療の欠点を補う有力な手法の1つであろうことには疑いはない。EBMを日常の臨床現場に応用するには次の5つのプロセスを踏むことになるとされている。

EBMを日常の臨床現場に応用するための5つのプロセス(2)
  1. 臨床現場で感じた疑問を解答可能な質問に変換する
  2. 変換した質問に答えるために根拠となる情報を検索する
  3. 見つけ出した根拠を批判的に吟味する
  4. 吟味した結果を自分の患者に適用できるか検討する
  5. 以上をもとに実際に行った診療行為を評価する
1.は準備作業。「患者の問題の定式化」というプロセスである。定式化するには次の3要素が用いられる。どんな患者に(patient)、何をすると(exposure)、どうなるか(outcome)。
2.は情報収集法。情報源としては教科書などの他にMEDLINEのような医学文献データベースを利用する。
3.では、ヒットした論文をそのまま鵜呑みにするのではなく、それがバイアスや偶然など統計学的に信頼に足るものであるかどうかの検討がなされる。
しかし、論文の信頼性が確認されたからといって、それがそのまま現前の患者に適用できるかどうかは別問題である。そこで4.5.のプロセスが必要となる。

以上見てみると、EBMは概念というよりは行動そのものである。そして、おそらくこういった手法を駆使する能力は、やがて医師にとっての基本的なリテラシー(=読み書き能力)の1つとみなされるようになっていくだろう。

「EBMは、検索して、論文読んで、大変だなと思われるかもしれない。しかしそうではない。いかに楽に勉強するか、それがEBMの基本なのである。」(3)

◎インフォームド・コンセントとEBM

ところで、EBMで得られる情報とはしょせん統計学的な、つまり確率として示される数字である。何%効果があり、何%なかったというような……。EBMは、だから医師自身が臨床上の決断を下すためのツールであると同時に、ないし、それ以上にインフォームド・コンセントのためのツールでなければならない。このことを逆に言うとこうなる。

「インフォームド・コンセントとは患者にもわかるような形にEBMのプロセスを組み直す作業」(4)である。

結局のところ、EBMとは、患者の自己決定の問題に帰着するようである。

【参考文献】

(1)山本和利、信頼できる情報を取捨選択し診療に生かす、日経メディカル 1998年7月号
(2)      同   上
(3)名郷直樹、EBM実践ワークブック、南江堂、1999年
(4)      同   上

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