(1)ハシゴ型
OKさん26歳女性、不定愁訴症候群、のぼせ・いらいら・肩こり・便秘などに悩まされあちこちの病院や診療所を渡り歩いてきています。ごく最近は大学病院までいって特に問題はないといわれています。
ある医師の所に来たときに、「いろいろ症状があってたいへんですね。しかし、なぜこんな遠方まで来られたのですか?」と聞かれました。「自分の地区にはろくな医師がいません。薬は効かないのに胃の調子は悪くなるし、痒いものはでるし、少しも良くなりません」と申します。「大学病院の先生は薬をくれませんでしたか」「くれましたが全然効きませんでした」
このような症状の場合は無難な漢方薬を考えるのも一つの方法ですが、この患者さんは素直に飲んでくれそうもありません。一通り説明をして漢方薬を出してみました。残念ながら、そのまま来られなくなりました。この医師の出した薬が効かない場合はそれはそれで次の薬に変更するときに大変有効な情報になるので、ぜひ有効に活用してもらいたかったのですが、たいへん残念です。
このようなタイプの患者さんをハシゴ型とよんでいます。医者が信用できず、すぐに別の医者にかかり、説明が気に入らないと、また別の医者に素早くかかるイライラ型です。前医の悪口をよくいいます。
医師にとっても、同業者の悪口を聞かされるのはあまり気分のいいものではありません。次は自分が同じようなことを言われるのだなとつい勘ぐってしまいます。そして現在まともに服用している薬がどれなのか全く把握できず、病状が急変した時にプライマリーケア医として対応に苦慮します。 |
(2)ショッピング型
TKさん82歳。糖尿病と脳血管障害と骨粗しょう症で通院の方です。糖尿病は食事療法で充分コントロールできていて、特に問題ありません。一月に一度程度の血糖のチェックで充分です。脳血管障害はこの年齢の方にはほとんどみられ、もう治療の対象にもなりません。骨粗しょう症もありますが、毎日手当を必要とはしません。しかし、ほとんど毎日きては今日はおしっこがにごっているとか、次の日はご飯がおいしくないとか、また別の日には寝つきが悪くなったとか、手を代え品を代えきてくださいます。
ありがたいといえばありがたい患者さんですが、どこか本来の姿ではないのです。
このようなタイプの患者さんをとりあえずショッピング型と呼ばせていただきます。このタイプの方はついでがあるから、友達が行くからなどの理由で来院されます。どこをどうしてほしいということもなくサロン風に来られ、楽しみながら言いたいことをいう。かかりつけ医にとって、経営上ありがたい面もありますが、このような方には行政の責任で(高齢者サロンサービス)など然るべき施設をつくってもらわねばなりません。
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(3)重複型
YHさん72歳女性、慢性胃炎、変形性膝関節症、高血圧、難聴、白内障などたくさんの病気と共生しています。しかし、それぞれの病気毎に自分で選んだ<主治医>を持っています。
胃腸病はK病院、神経痛はY外科、血圧はX内科、それぞれ薬をもらって適当に飲んでいます。ときどき耳鼻科や眼科にもかかり、全部の薬を合わせると20種類近くになります。こんなに沢山飲めますか?
薬には血糖降下剤や降圧剤のように症状が無くても飲み続けなければならないものと、痛み止めなどのように症状に合わせて加減して良いものがあります。このケースの場合はどの医師にもこんなにたくさん薬がでていることがつかめていませんでした。従って同じ作用機序を持った薬の重複投与がされている可能性が強くなってきます。そして、体調に合わせて自分で勝手に選択してしまい、一番肝心の薬が飲めていないことがしばしばあります。
一人の患者さんが、複数の診療科を受診するケースは慢性の疾患を持っている方や高齢の方にはしばしばみられることです。過剰投薬、重複投薬、薬の相互作用をチェックする機能を、「かかりつけ医師」や「かかりつけ薬剤師」などの専門家は持っています。二種類以上の薬を合わせると全く予期しない、相互反応や過剰反応を起こすことがあります。薬を合わせ飲むことは勝手にやらないでもらいたいものです。
もらった薬や検査データがICカードに即刻登録され、どこの病院に行ってもその内容が紹介されるシステムができつつありますが、現状ではやはり一人の<かかりつけ医師>の紹介状を持って他科を受診するか、または飲むべき薬を選別してもらうのが良い方法と考えられますが、いかがでしょう?
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(4)無関心型
DJさん45歳、検診の度に高血圧を指摘されるけれども症状がないので、数年間放置していました。ある時、ひどい頭痛と嘔吐に悩まされ家で寝ているということで往診しました。脳出血を起こしている様子はありませんが、ひどく血圧があがっています。220/130mmHgにもなっています。コレステロールも高く心電図にも異常所見がでて、尿蛋白まででています。今のうちにきちんと血圧のコントロールをするように厳重に注意をしました。それ以後は薬を欠かさず服用しています。
検診で尿糖や高血圧を指摘されても症状がないので放置する人は結構多いものです。やがて症状がでてから「なんとかして欲しい」といってきても、無症状の時からきちんと手当てを受けている人と同じようには良くなりません。このような人は症状が一時小康状態になるとまた受診しなくなる傾向があります。こんな方には<かかりつけ医>としては責任がもてません。
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(5)固執型
KNさん56歳男、心臓疾患の不整脈で服薬治療していました。最近心電図の所見が悪化し、場合によってはペースメーカーをつける必要があります。そのための専門的な検査に行ってもらわねばなりませんが、ご本人がどうしても行こうとしません。行くぐらいなら死ぬほうがましだ、と申します。本心から死にたいと思っている訳ではないのですが、とにかく面倒ぐさがりやなのです。勝手の効かない病院に行きたくないのです。
このようなタイプはハシゴ型の逆で、自分で考えた治療方法、自分の信頼した医者から一歩も動かないタイプです。信用された医者は医者冥利につきますが、病状によって限界があります。適当な専門医や他科との共診が必要な病気があり、指示に従って受けるべき精密検査や専門的治療は受けてもらいたいものです。
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(6)連携型(紹介型)
SMさん79歳男性、脳梗塞の後遺症と高血圧での通院中です。最近時々腰から背中にかけて痛みがあり、おしっこに血が混じります。調べると尿路結石か腫瘍が疑われます。泌尿器科に行って原因の検査を勧めました。高齢であるし、半身不随でもあるので行きたくないと申します。もっともなことです。しかし尿路結石であれば簡単に治るので鑑別診断は大切です。説得して泌尿器科へ行って石を取り除いてもらいました。放置すると度々出血やら痛みやら熱が出たりして大変です。その後の経過は良好です。
CSさん62歳男性、タバコを吸い過ぎて慢性の肺気腫という持続する呼吸困難の病気があります。治療としては複式呼吸をして肺の残存機能を活用したり、去痰の薬を使うぐらいしか方法がありません。しかしあまり治らないので「**病院の@@先生に一度診てもらいたいのですが」と相談を持ちかけられました。「それは良いことです。今までの経過を紹介状に書いておきますから、是非行って良く診てもらってきてください」今後は歳が行くに従って、肺機能が低下してくるので、来るべき時期の在宅酸素療法の準備のためにも、専門病院との連携が大切になる病気なのです。数年後にはやはり酸素吸入が必要になり、@@先生と連携を取りながら在宅療養を続けています。
「あなたはこのような理由でいくつかの検査が必要です。この検査のため○○病院を紹介しますから行ってください」と言えば素直に病院へ行ってくれる方や、また逆に自分自身や家族の希望で「**病院で診てもらいたいのですが、紹介状を書いてくれませんか」と正直に相談してくれる方はたいへんありがたいのです。
その後は、その病院からきちんと検査結果や治療方針を書いた紹介状をくれます。なにか変ったことがあればまたいつでもこちらから紹介できます。これからはこのような患者さんの同意を得た医療機関同士の連携が大切になります。
おわりに
住民健診や職場の健診をうけた場合は、必ずその報告書をかかりつけ医に保管してもらっておく習慣をつけてください。何かの時に必ず役に立ちます。日頃の医学的な知識も気軽に相談してください。例えば、入れ付けの置き薬なども、どのようなものか説明を受けておくと便利です。特に過去に薬の副作用がでたことがある人はそのことを必ず記録してもらうようにしておきましょう。急を要する病気の時、過去のデータがないと、正確な診断が遅れ、適切な治療ができないことはよくあることです。
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