番外編4・俺とファミコン(後編)

それは、学年が6に上がって間もなくの頃。
戸塚(仮名)が、やたらとあるゲームについて絶賛していた。
そのゲームは今度発売になるというロールプレイングゲームで、 ジャンプで大々的に特集が組まれていた。なんでも、 アクション的要素が全くない、ファミコン初の非リアルタイムRPGらしい。

「しかし、ドラクエは本当に面白そうだぜ」という戸塚に対し、しかし我々の評価は冷たかった。
「それはどうかな」「うむ、買ってみたら案外くだらないかもね。」
「まず、RPGだから操作性が悪い。操作性、あ・た
「それに、一度解いたらもう終わり。持続性、
「音楽もあまりよくなさそうだから、あ・た・た
「あんまり熱中できない気がする。熱中度、あ・た
「お買い得度は、あ・た、だな。」
「まあ、あまり期待しない方がいいよ。」
「ハイドライドスペシャルよりは面白いだろうけどな」
「なるほど、一理ある」
といった感じである。まあ、ジャンプでやたらと大々的に宣伝していたということで なんとなく胡散臭いものを感じていたのかもしれない。それでも、かなりの話題作で あったことは確かで、発売日にはみんながプレイしていたと思う。

私がプレイ(してないが)したのは、ちょうどその日遊びに行っていた 菊田(仮名)の家だった。菊田の兄がソフトと攻略本を買ってきたので、 「よーし、やろうやろう」という軽いノリで始めたのであった。
・・・しかし、プレイして(してないが)いくうちに、これはとんでもなく面白い ソフトなのでは?ということが、段々わかってきた。 マルチウィンドウ。会話。武器の装備。買い物。すべてが初めて見るものばかりであった。
町の外へ出ると、「ザッザッザ」画面は一転して平原へ。例の音楽が流れる。 そして、なんと言っても戦闘。「ギュニューギュニューギュニューでん、でろでろでん・・・」 という例の効果音が流れ、「スライムがあらわれた!」

このスライムを見たときの驚きは今でも忘れられない。「これがスライム!?」 それまでスライムといえば、ハイドライドやドルアーガに出てくる、あのゼリー状の「物体」 であるというのが常識であった。ところが、このドラクエに出てきたスライムは、 アカベイ真っ青の、 なんとも愛嬌のある、面白い絵柄で描かれていた。 「これが鳥山明の凄さなのか」と、妙に感動した憶えがある。ドラクエに出てきたキャラクターでは、 他にも、「ゴースト」「おおさそり」「まどうし」「よろいのきし」などがお気に入りであった。 とにかく、その日は、レベルは3まであがり、「おー、かなり進んだぜ! ここまで進んでるやつはいないだろう 」とか言っていた。

次の日の学校は、ドラクエの話で持ちきりであった。戸塚の話を聞くと、 なんとすでにレベル7まで到達していた。「 レベルが150を越えると、岩山を越えられる 」とかいうあやしげな噂もすでに飛び交っていた。 余談ではあるが、私は経験値が60000まであると聞いて「 60000匹もモンスターを倒さなきゃいかんなんて 大変そうだ」と思った覚えがある。 (一応弁解しておくと、「ハイドライドスペシャル」なんかでは、 レベルが上がるごとに手に入る経験値が少なくなって、 ドラクエのように「レベルが上がって強い敵を倒すと経験値50」、とかいうことは なかったので、それと同じに考えていた。)

とにかく夢中になったドラクエであるが、当時プレイした記憶は、 ストーリーという観点で見ると結構断片的にしか残っていなかったりする。 それはやはり、自分で持っていたわけではなく、そのためプレイに参加できない ことが結構あったためであろう。断片的といえば、すでにクリアした奴が ドラクエを持って家に来たときにそいつのパスワード(レベル26)でプレイして、 太陽の石やガライの墓のトリック、果てはエンディングまで先に体験してしまった などということもあった。

印象に残っている場面といえば、まず銀の竪琴を取ったときであろうか。 それは確か、雷の鳴るある平日の午後、学校が終わってから 学園台ゼミに行くまでの間(だったと思う、たしか) の時間に家でプレイしていた時だった。 先述のようにガライの墓はすでに体験済みだったが、自分たちで実際に 到達してみるとやはり趣が違う。とにかく、かつてない程の広大な 迷宮の中を、ヘルゴーストやメーダロードなどの珍種モンスターたちの攻撃に苦しみながら、 立体構造のトリックをくぐりぬけようやく銀の竪琴を手に入れたのであった。 「やったー!」沸き上がる歓声。しかし、「よし、すぐに脱出だ!」とリレミトを となえるものの、出てきたメッセージは「MPがたりない!」 「ぐおー、やべえ!」「くそー、もうだめか?」「いや、なんとか耐えるんだ!」 「ぐわー、敵だ!」「逃げろ!」・・・絶望しながらも必死にモンスターから逃げまくり、 MPが5しかない状態から奇跡的に外へ出られたときの達成感はなんとも格別のものであった。 また、リムルダールの南で、ゴールドマン退治に精を出したこともあった。 このときは確か土曜日で、6時間ぶっ続けで私の家でやった記憶がある。

そうこうしているうちに物語は進み、竜王の城にまでたどり着くようになっていた。 その頃の話題は、やはり「地下迷宮への入り口」と「ロトの剣のありか」であろうか。 とにかく、ある日の午後、学校が終わって 諏訪さん家の私塾に行く前の時間に、戸塚(仮名)の家で 竜王退治に出かけたのである。レベルは19。竜王を倒すことのできる最低ラインである。 死神の騎士やダースドラゴン(ちなみに、あたた神拳の本には ダークドラゴンと書いてある。はじめはダークドラゴンだったが、 「ク」のカタカナが使えない(漫画「ドラゴンクエストへの道」参照) ので「ダース」にした説が濃厚) といった超強敵から必死に逃げまくり、突然視界が広くなる 地下7階に驚きながら、いよいよ竜王とご対面である。
「よくきた てたたたよ。 わしが おうのなかのおう りゅうおうだ。わしは まっておった。 そなたのような わかものが あらわれることを・・・」「わしとてをくめば せかいの はんぶんを てたたたに やろう。 どうじゃ? わしの なかまになるか?」
敵としゃべれるというのに驚いたが(でも、じつはすでに口コミで知ってたような気もするが)、 答は当然「いいえ」である。「おろかものめ!おもいしるがよい!」・・・
「でた!竜王だ!」
「でやあー!」
「やった、倒した!!」
「ゲー、なにー!」
「正体を現したぞ!」
・・・画面は突然暗転し、「りゅうおうは しょうたいをあらわした!」 それは、ウインドウまではみ出る、かつてない巨大な敵キャラであった。 しかも、BGMが変わり、なんとも迫力のある「竜王のテーマ」が流れる。・・・
「ウギャー強い!」
「ぐわー、死ぬー」
「ベホイミだ、ベホイミ!」
「ぐおー、5ポイントしか与えられない〜!」
・・・強力な攻撃力を誇るレベル19の勇者てたたたの力を持ってして、10ポイントも ダメージを与えることができないというのは驚異であった。しかも、竜王の与えてくる ダメージは、常時30ポイントを軽く越えるのである。ベホイミを繰り返し、MPは みるみるうちになくなっていく。そして、ついに底をついた。もはやベホイミはかけられない。 私は、「そういえば、ベギラマが効くかもしれないと杉田(仮名)がいってたぞ」と 進言した。もし決まれば、一発大逆転の望みがある。「よし、ベギラマだ!」
「てたたたは ベギラマをとなえた!
 しかし、じゅもんは きかなかった」
「ウギャー、死ぬー!」
「望みを捨てるな!戦え!」
「ついにHPが2になった・・・」
「もうダメだ・・・!」
「くそっ、くらえ最後の攻撃!」
「りゅうおうに 13ポイントのダメージをあたえた!」
「たのむ、死んでくれ!」皆が祈るような気持ちで画面を見つめた。 そして・・・
「りゅうおうを たおした!」
信じられないことに、最後の一撃で竜王を倒すことに成功したのであった!

MPが底をつきた状態でどうやって帰るのかという心配もしたが、そこは自動的に 外へ出てくれたので杞憂だった。城へ帰り、王様のところへ向かう。
「おお!てたたた!すべてはふるいいいつたえのとおりであった!・・・(中略)・・・ てたたたの あらたなたびが はじまる」そして、エンディング。
ブラウン管には、美しいメロディーと共に、メッセージが浮かんで、そして消え、 その後スタッフ名が同様に表示され、消えていく。 シンプルイズベストな、なんとも洒落たエンディングである。
ゲームの終了にここまで凝った演出がされるゲームは、かつて見たことがなかった。 思わずこれまでの冒険をしみじみと振り返り、その余韻に浸る。感動であった。 おそらく全員が、同じ感動を味わっていたことだろう。

私はその日ずっと「なぜあれほど感動できたのか?」という、そればかりを考えていた。
このエンディングのおかげで私はエンディングマニアになり、 ドラクエIIやIIIでもエンディングだけを先に見ていたとか、また ゲーム音楽に本格的にのめりこみ、このドラクエのエンディングも テープに録音したものを毎日寝る前に聞いていたとか、あまつさえ生まれて 初めて(だったと思う)採譜に挑戦し、あの複雑な副旋律やコード部分の音符を 嬉々としてひとつひとつ聞き取っていったというのも、当時多くの子供達が 体験したことであろう。とにかく、あのエンディングの感動は、小学生の頃に 味わったものの中では、めぞん一刻 と並ぶ大きなものであった。

その後も、岩山の洞窟で金を稼ぎまくってレベル7で魔法の鎧を手に入れるとか、 悪魔の鎧をうまくラリホーで眠らせてレベル14でロトの鎧を手に入れるとか、 レベル12で(このへんのレベルは自信なし) ラリホーを駆使してドラゴンを倒してみるとか、しかしローラ姫は助けずに ゲームを進めるとか、あまつさえそのままレベルを30まで上げてみるとか、 とにかくドラクエワールドから抜け出したくないために、 いろいろな遊び方をしたものである。これまで10回くらいは解いたであろう。 また、エンディングだけなら、もう30回は見ただろうか・・・?とにかく、 この初代ドラクエは長い間 My Favorite であった。

小学生時代には、ドラクエIIも発売になった。このときは、戸塚(仮名)の家に ラジカセを持っていって音楽をテープに取るというほどのマニアぶりになっていた。 タイトル音楽はなんか変な風にアレンジされていたが、名前入力画面の音楽は バカ長いもののめちゃくちゃ良い曲で驚いた。そして、フィールド音楽は非常に カッコ良くなっていた。また、王女を仲間にして、バギを初めて見たときの 感動も忘れられない。「すげー、めちゃくちゃ面白ーぜ!」と、 我々の多くが初めてパーティープレイの楽しさを知った瞬間であった。

まあ、いずれにしてもプレイしたのは非常に断片的なところで、通してプレイするのは ずっと先のことになるのだが。 エンディングは、Iにも増して良くなっていた。とくに、 転調のところが良かった。しかし、この音楽を録音したときのテープを 聞くと、この転調のところで、 「ここがいいんだよ〜!」という三浦(仮名)の 声が何気に入っていたりするのはちょっと良くないかもしれない。


次回・最終回

(表題は予告なく変更される場合があります。)


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