第13章

多くの子供がそうであると思うが、私はとにかく団体行動が嫌いだった。 自分の意思で行動できない・行き先が決められないというのは、 あまり気持ちのいいものではない(単にわがままともいう)。

そこで、そのような状況に置かれると、私は常にゲームのことを考えだすのであった。

カブスカウトのハイキングとか、学校の遠足とか、家族のドライブとか、 とにかく小学生の頃は退屈なイベント が目白押しであったので、このような機会には事欠かなかった。

ひと口にゲームのことといってもいろいろあるが、たいていは、 現在作っているゲームのことか、作りたいゲームの構想のことだった。 特に「作りたいゲーム」についてはいろいろ考えた。

作りたいゲームといってもオリジナルより移植が多かったのだが… 例えば、「PC−8001mkIIでディグダグはできるだろうか?」 というテーマの時は、「あの穴が掘られていくグラフィックはどう実現 すればいいのか?」とか、「モンスターの移動アルゴリズム、特に 土の中をワープしてくる時はどうするのか?」とか、 「マシン語を使えばスピード的に十分実現できるかも…」とか、 とにかく考えることはいろいろあり、そしてそれが異様に楽しかった。 とにかく「自分の手でディグダグができるかもしれない」と考えることが それだけで楽しかった。

また、「PC−8001mkIIでゼビウスはできるだろうか?」 と考えたこともあった。このときは「できるかも」という思いはなく、 「できたら凄いだろうなー」と夢想するようなものだった。 「もしできるとしたら、開発期間は1年くらいだろうか…」などと、 これも話題はさまざまに広がった。 ご丁寧に、「PC−8001mkIIでゼビウスを作る本」というものを 構想し、もしできたらこういう構成になるだろう…というのを空想して楽しんだ。 その本には、「ここまで作るのに約1ヶ月かかるだろう」などと 予想完成時間まで解説されていた。 まあいずれにしても、ディグダグもゼビウスも実際には 1行たりとも作らなかったのだが。

あと、これは作りたいゲームとはちょっと違うが、「こんなゲームがあったらなあ」 と空想することもよくあった。3Dドライブゲームで道が複雑でルートをうまく 選んでいくゲームとか、また、ドラクエをやっていた頃は、「ドラクエ2が 出ないかなあ」とか考えたりした。そのドラクエ2は、「モンスターは150 種類」とか「レベルは100まである」とか「キングスライム HP:100」とか いかにも小学生な線型的な発想のものであったのだが。

「ドーロランナー」を作ったときも、このような空想に駆られることがあった。 「ドーロランナー」は、いわずとしれた「ロードランナー」を作ろうとした ものである。以前これを作ろうとして全然歯が立たず挫折したことがあったが、 今度はいけるかもという自信があった。それだけ私の実力もアップしていた。

このゲームのプログラムの壁はおもに「ハシゴの処理」「敵の移動アルゴリズム」 そして「掘った床が復活するところ」である。ハシゴのところは、 メイズハウスなどですでに経験を積んでいたのでなんとかなった。 また、「敵の移動」は難しいというよりは非常に楽しいところで、 なんとかしてあの横画面・重力ありの複雑な迷路状の画面でプレイヤーを 追っかけてくるようにできないかと試行錯誤することは 知的な楽しみを与えてくれた。完成したプログラムで、 敵がどう動くかを観察するのも、このゲームの楽しみの一つだった (というか、それが一番面白かったような…)。

問題は床の復活アルゴリズムである。ようするに掘った床の座標を配列に 入れておいて、また復活までの残り時間も配列に入れておいて、それぞれ チェックしておけばいいのだが、これが小学生にはなかなか難しく(配列も 無限にあるわけじゃないし)、実装もデバッグもやたらと苦労した。 このバグが完全にとれたときはめちゃくちゃ嬉しくて、 これがあるからデバッグはやめられないとか思ったものだ。 デバッグは一種のアドベンチャーゲームだなあと感じ、 「チャレンジ!デバッグコーナー」という記事まで考えてしまったくらいだ。 (チャレアベのように、筆者がバグをとっていく過程が、 画面写真とともにドラマチックに 書かれていくコーナーである)。

また、「誰でもできるパソコンプログラミング」などという全14冊の本も 考えたりした。その本はBASICから始まり、7巻あたりからマシン語の 解説になっていて、最後は凄いゲーム(ゼビウスだったかな?)を 2冊くらい使って作っていくというものであり、この中の1冊か2冊が 「デバッグ教室」みたいな巻になっているというものであった。

まあ結局「ドーロランナー」はベーマガに投稿するものの あっさりボツになって終わるのだが(実際オールBASICだし スピードはむちゃくちゃ遅いし、そのため敵の数を調節できたが 1人にするとゲームスタート直後に敵が勝手に穴にはまって敵がいないのと同じ になるし、そして画面はその1画面しかないしで、いまから考えると いいとこなしのゲームだったが…)、自分としてはなかなか楽しめた プログラミングだった。この発表号の85年12月号は未だに持ってないんだよ なあ…。一応ボツ紹介のページに自分の名前が載っているので手に入れて おきたいのだが…。

(つづく)


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