第14章

今はどうだか知らないが、当時、笠原小では集団登校が行われていた。 各番地ごとに児童が集まって、6年生のお兄さんお姉さんを班長にして 一緒に登校するものである。

当時の笠原小の児童数は1学年約100人、全校で600人という大規模な ものであった。「朝の会」の行なわれる少し前の時間になると、 通学班ごとに一列になって登校する小学生がウジャウジャと現れる。

通学路にあふれかえる人、人、人…。人の間を、ぶつからないようにぬって 班長についていかなくてはならない。そのためには、人のいないスペースを 見つけて進むだけでなく、人の動きを予測したりすることも必要になる。

新しいゲームのアイデアを模索していた私は、これを何とかゲームにできないかと 考えた。ウジャウジャと道を動く人にぶつからないように進んでいくゲーム…。

マシン語を使えるようになっていたため、このようなアイデアも実現可能に なってきていた。とはいえ、やはり「人を避けるゲーム」というだけでは 漠然としていたし、面白くなるという手応えもなかった。

それから紆余曲折を経て(詳細は忘れた。確か関根良祐のアイデアとの 統合で生まれたと思う)、ある日の昼、「迷路を進みつつ、迷路の中を 動いて追ってくる敵を避け、さらにミサイルで倒したりしながら 先へ進んでいくゲーム」という具体的なアイデアが浮かんだのである。

私は、思いつくと同時に、その完成形を想像し、そのあまりの 面白そうさの虜となった。 5時間目の学級会の時間では、先生の話などそっちのけで、ノートに 企画書を書くことに夢中になった。

タイトルは「GOLD ATTACK」。敵をミサイルで倒しつつ進んでいく ゲームで、画面はマシン語によって上下にスクロールする。長いフィールド マップがあり、それを上へ上へと進んでいくのである。後に廃止になったが、 弾数や時間も制限されていて、さらに弾は上にしか撃てないようになっていた。 敵をうまく自分の真上にくるように誘導しなければならないという訳である (「砲台が故障していて磁力とかの関係で北にしか弾が撃てなくなってしまった」 など、こじつけるためのストーリーもまじめに考えたりした)。

敵ははじめ20匹。20匹すべてを倒すと、その時点でマップ位置に関係なく 一面クリアとなり、ボーナスステージに突入する(このへんは 「スターフォース」に影響されている)。ボーナスステージは、 倉庫番のように敵(襲ってこない)を動かし、一列に並べて爆弾で一気に やっつけるというパズルチックなゲームになっている。爆弾は壁を壊すことが できるが、このときうまく外壁を壊して画面の外に出ることができると、 「ボーナスボーナス」「セレクトゾーン」といった 特殊ステージに進むことができる。 「セレクトゾーン」はようするにスーパーマリオのワープゾーンそのもので、 「+10」「+30」「+50」のどれかを選ぶと(御丁寧に「土管を選んで 入る」ようになっていた)それに応じてマップを進めて次の面を始めることが できるというものであった。

スクロールにマシン語を使うのはもちろんだが、さらにBGMを導入。 「BEEP音をマシン語で高速にON・OFFすることによって音階を生みだす」 という手法は当時すでにベーマガなどでもありふれた手法だった。 それらのプログラムでは、ほとんど効果音として使われているだけだったが、 音楽としてBGMを鳴らすことにも当然使える筈である。 さらに、20匹の敵を動かす「敵の移動」ルーチンも当然マシン語である。 このルーチンがいわばこのゲームのプログラミングの核であった。

さらに「画面データの2進数圧縮」も導入した。 画面データの圧縮は単なる聞きかじりで、当時は2進数が何なのかも 知らない状態だったので、「10進数2進数対応表」を見ながら 見ようみまねで法則を探して何とか変換プログラムを作ったりした。

迷路を最後まで抜けると、ボスが現れ、それとの一騎討ちになる。 そしてそれを倒すと感動のエンディング…と、当時のゲームの流行の最先端を 随所に取り入れたあたりからも、気合いの入りかたが伝わってくる。 当時はファミコンブームの最盛期で、このゲームの ゲームデザインも当然ファミコンゲームっぽくなっているのであった。

プログラミングでまず最初にとりかかったのが、一番簡単なルーチン、 「音出しルーチン」である。ある日の昼休み、 図書室に行ってノートにプログラムを書き始めた。 これは、従来のプログラムと殆ど同じルーチンなので、すぐに書き終えることが できた。まあ、実行して試したわけではないが、 とりあえず順調なすべりだしである。

(つづく)


15章へ
13章へ

戻る