潮位観測の根拠
日本地震学会発表論文
2013年度: 3.11地震直前の異常現象について
On the extraordinary phenomena just before the Great East Japan Earthquake
#Fujio Nakamura (Misato Marine Hospital)
1.はじめに
3.11地震直前の異常現象に関する聞き取り調査を2013年6月9日より7日間、 宮城県及び岩手県の32漁港を対象に調査した。
その結果、明治三陸沖地震、昭和三陸沖地震時と同様(文献1)の異常現象が発生している事が判明し、 その証言を収録することができた。
2.証言事例
磁気コンパスの乱れ
証言1 | 石巻市 (阿部和成) |
2011年3月8日 石巻沖72マイル沖の漁場から石巻に帰港中、 磁気コンパスは激しく振れオートパイロット困難、 手動操縦に切り替え帰港した。(図1-A) 後日、電気店に修理を依頼したがコンパスに異常はなかった。 |
【考察】 地震の3日前に、確かな電波障害が発生している。 |
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異常潮流
証言2 | 石巻市 (阿部和成) |
2011年2月5日 福島県富岡町沖20kmの漁場から石巻に帰港中、
通常3ノットの潮流がこの日は7ノットの早い潮が発生し
相馬沖51kmの方向に流された。
(図1-B-C) 又、2011年11月頃より牡鹿半島の東側の海域(図1-D) 通常時は1.8ノットが4ノットの潮流が流れていた。 |
【考察】 地震の34日前に速い潮の流れが発生している。 原因は、海底地盤の変動により海水が動いた事を推測できる。 |
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証言3 | 石巻市 (渡辺孝義) |
2011年3月11日朝6時、相馬沖水深600mの海域で操業を開始した。 同朝は「西の風吹く」という気象庁の予報であったが、 現場海域は無風でベタ凪ぎ状態、そんな中「川に石を投げ入れた」ような 体験したことのない変な波が発生した(図1-E) |
【考察】 600m海底下の地盤の変動により海面に波紋状の波が起き、 中央に水柱に似た波が発生したことが考えられる。 |
証言4 | 大船渡、綾里 (山崎昭) |
2011年3月11日 地震の40分前 船外機の給油を終え岸壁に上ろうとした時、 急に海面が60cm低下した。 |
【考察】 地震の直前、一時的に海岸の地盤隆起が考えられる。 他の地域にも同じことが起きている可能性がある。 |
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証言5 | 久慈市小袖 (中川リサ子) |
2010年12月頃より海は荒れた。 3月11日だけ海は朝から静かであった。 3月11日朝から岸壁で仕事をしていたが、普段と違い干潮時間が異常に長かった。 |
【考察】 地盤隆起による退潮発生・異常干潮を起し、約6時間後に地震が起きている。 昭和南海地震時は、異常干潮発生後11時間後に地震が起きた。 |
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証言6 | 三陸町 (三島明則) |
半年前から海の様子がおかしかった。 干満の差が大きく異常な高潮が来た事もある。 |
【考察】 半年前から、潮の狂いが起きている。 異常な高潮は海底地盤の変動が考えられる。 |
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証言7 | 釜石市 (小島松尾) |
地震の前の年(2010年)は普段にないような干満の差が大きく、 2010年9月に異常な高潮があった。 | |
証言8 | 気仙沼 (柏木武夫) |
3月11日の午前中、大沢漁港外の水深10~5mに潜りナマコを採っていたが 海底付近の潮の流れが速く普段と違っていた。 |
【考察】 普段と違う潮の流れは、沿岸部の海底地盤の変動が伺える。 昭和南海でも同じことがあった。 |
証言9 | 釜石市 (植田勝雄) |
前の年(2010年)3月 2m位の津波が来て養殖筏に被害が出た。 潮は川のように流れていた。 |
【考察】 1年前に2mの津波と速い流れは、海底の小さな地すべりが考えられる。 釜石沖で津波が発生するような地震は起きていない。 |
証言10 | 宮古市 (石村浩介) |
2010年11月から12月頃、潮が速く養殖筏に被害が出た。 3月9日は50cmの津波が来た。 |
異常な漁獲量
証言11 | 大槌町 (三浦勝) |
2010年3月11日は天気も良く、大槌町沖でドンコが普段の3倍以上獲れ大漁、 これを3航海した。 |
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証言12 | 気仙沼 (相場佐年) |
2010年3月11日、いつものようにアナゴ漁に出たが アナゴ筒を100個海底に残しても普段の3倍以上の大漁であった。 アナゴは例年3月にあまり獲れない。 |
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証言13 | 宮古市田野畑 (九里氏) |
2010年3月11日、田野畑沖で毛ガニが異常に獲れ大漁であった。 普段は30kgのところ、150kg獲れた。 600kg獲った船もある。 |
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証言14 | 釜石市 (植田勝雄) |
地震の前からサワラの大群が来た。 イワシも大漁。 |
証言15 | 釜石市 (松本忠美) |
箱崎でイワシが、大船渡でマグロ、イワシが大漁であった。 |
異常音
証言16 | 石巻 (末永浩) |
3月11日午前中、爆発音を3回聞いた。 |
【考察】 プレート内部の水蒸気爆発、ガス爆発と思われ、正に断層破壊が進行している証拠。 |
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証言17 | 釜石市 (柏崎之彦) |
地震前に釜石沖合で岩が割れるような大きな音を聞いた。 |
【考察】 正に海底地盤の破壊音と位置付ける。 |
証言18 | 宮古市野田村 (鈴木勇) |
3月10日夜、ゴーという地鳴りを聞いた。 |
【考察】 地殻変動進行中、地震の前夜の断層破壊音と思われる。 |
証言19 | 宮古市野田村 (中川雄大) |
何日も前からよく地震があったので慣れっこになっていた。 |
【考察】 3.11直前の群発地震を確認できる。 |
地震前の気温
証言20 | 大槌町 (三浦勝) |
3月11日午前中、半袖で汗をかきながら沖合で漁をした。 地震後は雪を降った。 |
【考察】 本震前の地殻変動によりプレート内部から種々の化学物質が地上に放出され 化学変化を起こし大気は暖かくなる。地震後は雪が降った。 昭和南海も同様に地震前は暑く、地震後は急激に温度が下リ、雪や霜がおりた。 |
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証言21 | 塩釜 (斉藤幸喜) |
3月11日の午前中は春のように暖かく、また暑く感じた。 地震後は雪が降った。 | |
証言22 | 釜石市 (柏崎之彦) |
3月11日の日中は暖かかった。が、地震後は雪が降った。 | |
証言23 | 釜石市 (植田長悦) |
3月11日の日中は暖かかった。 |
マツタケの異常繁殖
証言24 | 宮古市 (吉川昭久) |
地震の前の年、マツタケが大量に採れた。 |
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証言25 | 釜石市 (植田勝雄) |
宮城・岩手で地震の前の年、マツタケが異常発生した。 |
考察
上記証言は、明らかに地震の前兆現象と位置付けできる。 このことを、専門家がどのように分析判断されるのか今後の課題。
3.まとめ
- 3.11地震の3日前、牡鹿半島南側海域で著しい磁気の乱れが見られる。
- 特に、牡鹿半島周辺の海域で通常と異なる速い潮流が発生している。 同様な速い潮は宮城、岩手県で多くの事例がある。
- 大船渡綾里では地震の40分前、60cmの海面低下を起こした。
- 久慈市小袖では3.11の日中は異常に干潮時間が長かった。 小袖の事例は異常干潮の可能性がある。
- 明治三陸沖、昭和三陸沖地震時と同様に魚類の異常行動が見られ各地で大漁があった。
- 3.11の日中は暑く、地震後は雪が降った。
- 地震前、地震後の気温の急激な変化は、安政、昭和南海地震時でも同様の現象が見られ 地震との相関関係が伺われる。
- 過去の三陸沖地震時と異なり港の岸壁は深く海面上下運動は分かりにくい。
- 井戸は現存しているが、現在は使用していないという条件下にあった。
- 港には漁師たちの姿は少なく寂しい風景であった。
参考文献 明治三陸大津波(吉村 昭)