潮位観測の根拠
日本地震学会発表論文
2014年度: 昭和南海地震直後の復元水および地盤沈下による入波
On Two Types of Irregular Flood Tide Caused by Land Subsidence just after 1946 Nankai Earthquake
#Fujio Nakamura (Misato Marine Hospital)
1.はじめに
高知・徳島両県の沿岸部住民を対象に著者が行った聞き取り調査の結果、 昭和南海地震発生直後に復元水および入波があったと確認された地域は 同沿岸部の33地域に上り、推定5m前後の入波が侵入した地域がある。 証言をもとに退潮港・非退潮港をマッピングすると、 地震発生前後に起きた地盤変動の実態を復元できる(図1)。 地盤隆起と沈下が、0.5~4kmという狭い距離範囲で小刻みに生じていたことがわかる(図2)。
図1: 昭和南海地震時の退潮港・非退潮港分布図
退潮地域19港 非退潮地域25港(内 14港沈下)
昭和21年12月20日17時~21日午前4時19分
図2: 隣接する退潮・非退潮地域の例
昭和21年12月21日午前2時の状況を表す
2.退潮・非退潮の実際
退潮
昭和南海地震の前日12月20日夕刻より、 徳島・高知両県沿岸部にかけて高低差3m前後の退潮が発生した地域がある。 「退潮後に潮が満ちてきた」という証言が1例もないことから、 地震発生までの約11時間にわたり異常干潮が続いていたと推測される。
非退潮
図2に示す通り、退潮港AおよびCから直線距離にしてそれぞれ2km/2.5km離れたB港では 通常時の潮位を保ち海面変動は全く見られなかった。
3.復元水の発生原因
退潮現象が各地域において同一時間帯に長時間継続していることから、 「退潮」地域では潮が引いたのではなく地盤が隆起したものと推定できる。 復元水とは、地震発生前の地盤隆起による異常干潮が起きていた場所において、 地震発生と同時に地盤が元の高さまで下落した際、 それまで外洋に排出されていた海水が逆に流入してくる現象を指す。
4.地盤沈下による入波
入波は復元水とは異なり、図1に示す非退潮地域で発生している。 昭和南海地震では満潮時に近い時刻に地盤沈下が生じたため、 5m前後の入波がまさに揺れながら侵入した。 入波の発生した徳島県海陽町浅川では85名、 海部郡牟岐町では52名の犠牲者をみた。 地盤沈下による入波は津波第1波が到達する前の現象であり、 上記以外にも12地域でその存在が証言されている。 高知県東洋町甲浦では安政南海地震時にも同様の入波があったことが古文書に記載されている。
5.まとめ
各証言を分析し総合的に考察すると、 退潮地域では潮が引いたのではなく地盤が隆起したものと推定できる。 地盤下落による復元水および地盤沈下による入波は 地震発生と同時に流入してくるため、逃げる時間がなく非常に危険である。 今後津波対策を考える際にはこの点に留意する必要がある。