不妊症


腎の働きは大きく分けて2つの作用があります。

@1つ目は、身体に熱が多くなりすぎないように冷やす作用です。
東洋医学では「腎は水を主る」と考え、水によって物を固める(例えば土は乾燥しすぎるとバラバラになる)、または、心臓のように熱の多い臓器と深く関係し、心に熱が多くなりすぎないようにバランスをとる(車で例えれば、腎の冷ます働きは心の熱を調節するラジエターのようなも)働きです。

A2つ目は、腎の熱エネルギー(陽気)の作用です。
「腎は水を主り、冷ます作用」と申しましたが、冷えるだけでは生きていけません。
腎にも熱エネルギーが必要であり、心と腎がお互いにバランスをとっています。腎は心に熱が多くなりすぎないように、心から腎へは熱エネルギー(命門の火)が送られ、生命活動を活発にしています
【東洋医学から診た、着床から出産まで】
 血が充分に子宮を養えていると精子が子宮に着床しやすくなることは、ご説明しました。
東洋医学では、着床してから出産まで、様々な経絡(ツボ、生体エネルギーの通り道)が子宮や胎児を養います
 着床して、何ヶ月目かに体調不良を訴えたり、最悪の場合流産してしまうのは、その時働くべき経絡がしっかり役目を果たしきれないため、とも考えられます。
 着床して1ヶ月目は肝の経絡が養います。 2ヶ月目は胆3ヶ月目は心包4ヶ月目は三焦
5ヶ月目は脾6ヶ月目は胃7ヶ月目は肺 8ヶ月目は大腸 9ヶ月目は腎10ヶ月目は膀胱
以上のように時期に応じて、それぞれの経絡がお母さんの子宮と胎児を養うのです。

     
【妊娠しやすい身体を作るツボ】
先日、助産師(永井人美先生)の先生をお招きして勉強会を開催しました。
その中で、妊婦さんの身体作りのお話があり、東洋医学と相通じることの多さにビックリしました。
特に冷えは大敵で、身体が冷えていると妊娠しても骨盤が歪み、逆子や難産になる可能性が高いそうです。
東洋医学でも、血が少ないと冷え、子宮を充分養えません。そんなときに効果のあるツボをご紹介しましょう。

@太衝(たいしょう) 肝経のツボで血を増やす作用が強い  
足の甲の部分で、最も高くなっている骨の前。第1指と第2指の骨の間にあり、骨の間を指先でさすり上げて行き、指の止まる所。



A三陰交(さんいんこう) 衝脉というツボの流れにあり、直接子宮に影響て養う。
また、字の如く肝・腎・脾のツボの流れが交わる。
足のうちくるぶしで最も高いところの上3寸(手の人差し指・中指・薬指・小指をそろえた幅)で、骨の際、よく探ると骨の窪みがあり、押さえると痛い所。

  

B関元(かんげん) 
下腹部にあり、おヘソの下3寸。手のひらを当てるとヒンヤリしていると温灸が効果的。
ただし、お腹は皮膚が敏感で火傷しやすい部分ですので、熱く感じたら温灸をはずしましょう。
関元は別名「丹田」と呼ばれ元気を蔵するといわれる。全てのタイプに効果が期待できます。

            
 不妊症の原因はいろいろありますが、排卵もあり、男性にも問題がなければ、ほとんどの場合子だからに恵まれます。
もし、西洋医学的に病名がついたとしても、医師が不妊治療を勧めたり、元の病気を治しながら不妊治療を行うのであれば、妊娠の可能性はあるわけで、東洋伝統医術のはり・灸をあわせて行えば妊娠の確率は相当高くなります

では、はりでなぜ妊娠しやすくなるのでしょうか?

 東洋医学では、妊娠するためには血が充分あることが良いとされています。
血は五臓六腑の中の肝に蓄えられ、必要に応じて全身に巡りますが、肝に蓄えられる血が少なすぎたり(血虚)、巡りの悪い血(オ血:おけつ)ができると妊娠しにくくなります。


【不妊症の方は、次のどれかに当てはまります】
@血が少なく冷える。そのため子宮を充分養えないために妊娠しにくい。(血虚)
A身体のどこかに流れが悪くなった血が滞る、そのために妊娠しにくい。(オ血)
B血が少ないのと同時に、身体のどこかに流れが悪くなった血があるために、妊娠しにくい。(血虚+オ血)


【治療方針】
 @とBの場合、まず血を増やすツボにはりやお灸をします。
体質によって若干違ったツボを使いますが、血を補い、身体を温め、充分に子宮を養うことで、妊娠の準備をします。
 西洋医学的に診て、血の不足による不妊の方は、子宮内膜の層が薄いことが多いのですが、血を増やす治療を続けることによって、子宮内膜の層が厚くなり、妊娠しやすくなります。
 Aの場合やBで充分血が増えてからは、流れの悪い血を動かすような治療をします。
下腹部や腰、仙骨部によく反応が現れます。置鍼(鍼をして、しばらく置いておきます)や灸頭鍼(鍼の上で艾を燃やし、温める)、導引(気を導き動かす手技)をします。

 このように、血を増やす治療や、血をよく巡らせる治療を続けますと、自覚症状としては、冷え症状がなくなり、肩こりや頭痛、便秘など他の辛い症状も緩解していきます。そして何より、生理痛などがなくなってきます。
 生理は女性の健康のバロメーターですので、これが正常(周期や量・痛み)になることで治療効果が実感できます。
また、腎の熱エネルギー(命門の火)は胃腸の働きを助けています。
胃腸は食べたものをエネルギーに変える所ですが、胃腸を「ご飯を炊くお釜」に例えますと、腎の熱エネルギーは「カマドの中の種火」と言えます。
種火がしっかりしていると、いつでも薪を入れると火が盛んになってご飯が炊けますが、種火が弱く不安定ですと、なかなかご飯は炊けません。

腎の熱エネルギーが充分働けば、足腰を冷えから守り、胃腸も正常に働くようになります。
男子精子の数が少なかったり元気がないのは、この腎の熱エネルギーが充分でないと考えます。

治療では心(心包)からの熱エネルギーが充分送れるように、また、腎を温めて精子の働きを助けるようにします。
【男性が原因の不妊症】
女性の不妊の大きな原因の多くは、血に関係することが多いのですが、男性が原因となる不妊の多くは「腎の働きが充分でない」場合が考えられます。