私は「君が代」が「象徴天皇制下の日本」を指すとの今回の政府解釈には国語的に少々無理があるのではとの印象を持っている。が、とりあえず今はそれは脇におく。とにもかくにも政府が「君が代」の歌詞の解釈を示したことは歓迎したい。このかん、色々な法案について成立の既成事実づくりに躍起になるあまり、何事につけ法の意味合いについての説明をあいまいにしてきた政府の態度が目立っていたから。
だが、問題はここから先にある。政府解釈による「君が代」の歌詞の通り、象徴天皇制が千代に八千代に続くことが「国民」にとって本当に幸福なんだろうか?
日本の戦後体制の構想にあたったアメリカの戦後計画委員会(PWC)において次のような議論が行われたという。「天皇制廃止の結果として生ずる不利のひとつは、天皇抜きの統治に進んで参加できる有能な日本人を見い出すのがむつかしいことである。」「かりに日本が強制されて人権宣言を採択したところで、普通一般の日本人は、個人の自由の真の意義についてほとんど自覚していないので、あまり意味がないだろう。」
つまり日本人は未成熟なので象徴天皇のような存在が必要、共和制などは使いこなせないというのである。この認識が正しかったかどうか定かではない。しかし戦後日本はこの線に沿って歩んできた。そしてわれわれは今後もこの道を進むのか? そろそろ真剣に考える時期ではないだろうか。
手元の国語辞典を見てみると、例えば「代」ではなく「世」ならばたしかに「時代」の意と共に「社会」の意味も含まれる。しかし「代」の場合はそうなっていない。辞書には「ひとり、または同一系統の統治者が国を支配している期間。時代。」とある。
古今和歌集の時代には「君」は文字通り「あなた」であり、「代」は「よわい」すなわち年齢を指したらしい。つまり「君が代」の歌は「長寿を祝ぐ歌」だった。しかし「君が代」を現代語で素直に解釈すれば、やはり「天皇の時代」なのである。だから、そうした素直な解釈に則った上で、そうした歌詞を持つ歌を「国歌」として採用することの是非を問うべきなのだ。
法案を成立させるためだからといって、理屈に合わない奇怪な「解釈」を行い、国語をぞんざいに扱うのはやめて欲しい。歌詞の意が素直に読解できないような歌が本当に「国歌」にふさわしいのか。そうした疑問すらが沸いてくるのである。
【参 考】
第145回国会本会議(衆議院)での小渕総理の答弁(部分)
同様の暴力は今年も発生している。大阪では先月、中学校の校長が果物ナイフで刺される事件が起きた。逮捕された容疑者は、「日の丸掲揚や君が代斉唱を全国に広めてほしい。校長を殺せば(マスコミ)に大きく取り上げてもらえる、と思った」と供述したという。
国旗・国歌の法制化に関し、日の丸・君が代の強制は行わないと政府は言う。しかし、たとえ行政が強制しなくても、上のようなテロ事件が度々発生するならば、社会の非公的な強制力は存在すると見るべきである。また、法制化がこのような暴力に勢いを与える可能性も充分考えられる。こうした意味からも、国旗・国歌の法制化には危惧を感じないわけにはいかない。
【参 考】
再録:高知県知事の「君が代」発言をめぐる動きについて(NIFTY SERVE への投稿)
このたび成立した国旗国歌法にしても、一面ではそうだ。日の丸・君が代はかつての軍国日本においてやはり一種の象徴であったがゆえに、戦後の非軍事化の流れの中で、あからさまに国旗・国歌と位置付けることが憚られてきた。「戦後後」の現在、ついにその禁が破られた。
しかし一方、「君が代」の法制化に関しては、全く逆の側面がある。何故ならば「君が代」の歌詞には、敗戦によっても「護持」された「国体」、すなわち天皇制(戦後的には象徴天皇制)永続の意図が込められていると読めるからである。そういう意味では「君が代」法制化は、「戦後」の固定化に他ならない。
日本の戦後体制の構想にあたったアメリカの戦後計画委員会(PWC)において次のような議論が行われたという。「天皇制廃止の結果として生ずる不利のひとつは、天皇抜きの統治に進んで参加できる有能な日本人を見い出すのがむつかしいことである。」「かりに日本が強制されて人権宣言を採択したところで、普通一般の日本人は、個人の自由の真の意義についてほとんど自覚していないので、あまり意味がないだろう。」
つまり日本人は未成熟なので象徴天皇のような存在が必要、共和制などは使いこなせないというのである。当時のこのPWCの認識が正しかったかどうか定かではない。しかしそれがいつまでも真実であるとも思えない。だから私は、象徴天皇制もまた、本当は再考の時期を迎えているのだと思っている。これだけ社会の仕組みが見直されている時に、象徴天皇制だけ埒外というのは、どうも間尺にあわない気がするのだ。そういう意味でも、「君が代」が本当に国歌で良いのか、もっとじっくり考えて欲しかったのである。
【関 連】
日の丸・君が代法制化論議(脳味噌煮込みうどん 99年4月)
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