◎クローズアップされるリスクマネジメント
昨年1月、横浜市立大学医学部附属病院で、肺と心臓の手術をする2人の患者が取り違えられるという事故が発生した。この事故報道に端を発し、各地での医療事故・過誤事件が相次いでマスコミ報道され、そのたびに「また起こった」などと書き立てられている。
こうした状況下、医療側においては医療事故の防止と紛争の予防についての組織的対策、すなわちリスクマネジメント(危機管理)に対する関心が急速に高まっている。
また、行政レベルにおいても、以下のような厚生省の取り組みがすでに開始または準備されている。
- 患者誤認事故防止マニュアルの作成
- 「患者誤認事故予防のための院内管理体制の確立方策に関する検討会報告書」を作成、都道府県や病院等へ送るとともに、厚生省ホームページにも掲載している。
- 特定機能病院/急性期特定病院の安全管理体制の制度化
- 特定機能病院および本年4月に新設された急性期特定病院(→トレンド解説No.4参照)においては、院内事故防止体制の整備が承認要件の1つとされるようになった。
- 医療事故防止に関する調査研究
- 1999年度より3年計画で、厚生省科学研究費補助金による「医療のリスクマネジメントシステム構築に関する研究」が行われている。
- 医薬品等関連医療事故防止システム構築(準備中)
- 医薬品・医療用具などの容器の形態や名称の紛らわしさなどの要因による医療ミス情報の収集・分析と、その改善策を検討・実施するシステムを構築する予定(今年度)。
- リスクマネジメントスタンダードマニュアル作成(準備中)
- 標準的な医療事故防止手順書である「リスクマネジメントスタンダードマニュアル」の国立病院版を作成し、国立病院以外の病院にも広く公開する予定。
◎リスクマネジメントの手法
医療におけるリスクマネジメントを検討する上でよく参考にされるのは、航空業界におけるそれである。同業界では企業内にリスクマネジメントの担当部門を設け、誤操作などのヒューマンエラーに関する報告・情報を収集・分析し、これらエラーを減少させるための対策を立てている。
情報収集にあたっては、通常、事故ばかりでなくニアミスなども報告の対象とされる。その根拠となっているのが「ハインリッヒの法則」。これは「1つの大事故の背後には約30件の小さな事故があり、その小さい事故の背後には約300件のニアミスがある」というもの。
こうしたあらゆるヒューマンエラーに関する情報を収集・分析することが事故予防につながると
されるのである。
なお、この事故・ニアミス等の報告にあたっては、それを起こしたことを理由としての「処分」など不利益処遇を本人に対して行わないことが重要とされているようである。
また、他にも、事故・紛争防止対策としては次のような事が重要である。
院内感染対策、侵襲的検査・治療に対する文書による説明と同意、職員の教育および啓蒙……。
◎究極的には“マインド”の問題
以上述べたようなリスクマネジメントとは取りも直さず“システム”の問題である。しかし、こうした“システム”を機能させるのも、そして事故を予防し、医事紛争を防止するのも、大きくは医療従事者の“マインド”に依っていると言わなければならない。
医事紛争の多くは、医療従事者と患者とのコミュニケーション不足によるといわれている。医療従事者としての接遇やマナー、患者中心に物事を考える姿勢、いろいろな作業で確認を怠らないこと、患者の言葉に耳を傾け、患者と良い信頼関係を築くこと等は重要である。
さらに院内において、事故やニアミスを隠さず報告でき、職種・職位等にかかわらず、職員が医療事故の防止に関して自由に発言・議論できる、そのような職場風土づくり……。こういったものの醸成こそが、リスクマネジメントの“システム”運用の中で目指されねばならないのである。
| タイトル一覧へ | ホームページに戻る | 掲 示 板mailto:BXJ05037@nifty.ne.jp |