医療における二重思考(ダブル・シンキング)今年も1年間をふり返り、あれこれ思う時期になった。03年は、米英のイラクに対する開戦(3月)に始まり、自衛隊イラク派遣(12月)に終わる、まさに戦争と、いわゆる「テロに対する闘い」とに明け暮れた1年となりそうだ。ここ2年ばかりの間で、戦争と平和の問題は、急速に私たちの身近な、そして深刻な問題へとなりつつある。
さて、「戦争と平和」といえば思い出すのが(私の場合はトルストイではなく)ジョージ・オーウェルのアンチ・ユートピア小説「一九八四年」に出てくる3つのスローガン。「戦争とは平和である。自由とは屈従である。無知とは力である」。この小説の世界では、このように倒錯した二重思考(ダブル・シンキングという)が、国を支配する「党」によって、人々に強制されている。
二〇〇三年の現実の世界はどうか。実は結構こうしたダブル・シンキングに溢れてはいないか?
戦争をけしかける国は平和を愛する国。軍事制圧は解放。自衛は先制攻撃。派兵は人道支援……。わが国の医療の世界にもダブル・シンキングはある。
市場原理導入がもたらす医療サービスの向上とは、儲けにならない患者の選別のこと。保険診療の不自由を解消する混合診療は、保険収載すべき薬や検査が保険で使えない不自由が解消しないことをさす。
声高で美しいスローガンがもたらす真実は、往々にして言葉とは正反対のものだったりする。二〇〇四年、私たちには一層、プロパガンダに騙されない賢さ、トレンドなるものに安易に流されない患者本意の視座、現場に根ざす確かな実践、そして真の意味での医療の質の向上。そうしたものが求められるのではないだろうか?