IZ-News 06年04月号より
沈黙の壁

先ごろ、福島県の県立病院で帝王切開手術の執刀(04年12月)を行った産婦人科医が業務上過失致死と医師法第21条(異状死の届出義務)違反容疑で逮捕・起訴される事件がおき、医療現場に波紋を広げている。とくに医師法21条をめぐっては、これまでも異状死の定義自体があいまいで、解釈や取り組みについて議論の最中であっただけに、今回の当局による強権的なやり方を疑問視する声は多いようだ。

とはいえ、医療事故の原因究明と再発防止のために、事故発生時、誰がどこへどのように届出を行い、そしてその事案を関係者の納得が得られるよう、どのように処理すべきか。そうした制度を今後整備していく必要があるという意見については、たいていの人が賛同するのではないだろうか?

ところで、最近読んだ「沈黙の壁」という本(当院図書室の蔵書である)では、このことに関し米国での実情が書いてあり、興味深い。
本書によると、2003年時点で医療機関に医療ミスの報告を義務づける制度は連邦政府にはなく、州ごとの決まりとなっている。義務化を行っている州は20。他に任意の報告制度をとっている州がいくつかあるという。ただ、積極的にエラー報告を求めている州はわずかで、これまで100件以上の報告を受けた州は6つしかない。そして、報告制度義務化への医療界の「抵抗」について、「狂牛病」対策を引き合いにして次のように書いている。


米国科学アカデミー医学研究所(IOM)の報告書は、重篤な障害もしくは死を招いた医療ミスについて病院に州政府への報告を義務づける制度の確立を提言している。しかし、この提言は病院界の抵抗という強固な壁に直面している。
(中略)
汚染食肉に関する情報提供を牧場主や食肉加工業者の任意にゆだね、彼らの時間が許すときに報告しようという意思に依存して、それらの情報を業界内にとどめておくといったことを想像できるだろうか。しかも業界の主張が、汚染牛肉を発見して政府当局と社会に開示したら、それだけで多くの人たちが吐き気をもよおし、業界を提訴するだろうから、というものだったら……。

かの地においても、色々とせめぎ合いがあるようである。

関連:読書日誌「沈黙の壁」


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