IZ-News 07年08月号より
敢えて希望を語る

本紙先月〜今月号の院長随想にある通り、昨今「医療崩壊」の危機がさかんに叫ばれている。そんな中、「敢えて希望を語る」著作・論文に出会ったので紹介する。どちらも、危機を語りながら、危機を煽らないところに好感が持てる。

まず、「医療の限界」(小松秀樹著・新潮新書)。医療の崩壊現象を分析する上で重要なキーワードである「立ち去り型サボタージュ」という言葉を造語した著者が、今年6月に出した新刊である。
現在のわが国の医療がおかれている危機的状況について、死生観・法思想・文明論にまで掘り下げて論及した独特の文章には、類書にはない独自性があり、興味深い。その一方、著者が勤める虎の門病院における医療安全対策の紹介など、具体的対策についての記述は、当院にとっても参考となる部分が大きい。著者は医療の現場を崩壊させる社会の際限ない安心・安全要求、医療について無理解な司法界、医療バッシングで暴走するマスコミ・世論などを痛烈に批判し、急激に進行つつある医療の危機を訴えながら、一方で「短い時間枠の中で絶望するのは合理的でない」と言い、危機を乗り越えるための方策を提起する。敢えて希望を語ろう、というわけだ。

もうひとつは、「世界の中の日本の医療と今後の医療改革」(二木立)。インターネット上に公開されている医療経済学者二木氏の「医療経済・政策学関連ニューズレター」からの一文である(通巻35号より)。
二木氏もわが国の救急医療や産科・小児科医療を中心とした医療危機・荒廃について、「1980年代以降4半世紀も継続された世界一厳しい医療費抑制政策と医師数養成抑制政策が臨界点を超えたために生じた」と、痛烈に批判しつつ、最近の医療制度改革の肯定面やマスコミ論調の変化、安倍政権になってからの「小泉改革」の部分的見直しの動きの中に「敢えて」希望の光を求め、さらに医療者の自己改革の重要性について語っている。そして医療者には、「絶望しすぎず、希望を持ちすぎず」という態度が必要だと説いている。傾聴すべし、と思う。


二つの著作・論文を見て思い出すのは次の言葉だ。多くの人が心に刻んでほしい言葉だと、私は常々思っている。

「彼(モラリスト)のスローガンは常に、そして現在もDennoch(それにもかかわらず!)である。」
(エーリヒ・ケストナー「ファービアン」より)

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