IZ-News 09年03月号より
ゲバラ「革命戦争回顧録」

先月、映画「チェ」二部作(注1)を続けて観た。そして、映画に触発され、原作となっているチェ・ゲバラ(注2)の著書2冊を買った。そのうちの1冊「革命戦争回顧録」で私がもっとも印象に残ったのは、エウティミオ・ゲラについてのエピソードである。

時は1957年。ゲバラやカストロ(注3)たちがキューバの山中でゲリラ戦を戦っている頃の話だ。エウティミオ・ゲラは反乱農民の一人で、当初カストロら革命軍に協力していたが、ある時政府軍に捕縛され、救命されるかわりにスパイ役を引き受けることとなる。エウティミオは、一時はあわやカストロを暗殺する寸前までいったが、未遂に終わった。その後も彼は、度々政府軍の手引をして、革命軍に被害を負わせた。だが、ついに彼のスパイ行為が発覚し、革命軍によって捕捉、処刑されるにいたる。

処刑に際し、エウティミオは彼自身の生命については全く観念していたが、何か所望することがあるかと訊かれると、自分の子供たちの世話を革命軍に依頼した。革命軍はこの約束を守った。幼い子供たちはその後、別の姓名を名乗り、革命後のキューバで他の児童同様の教育を受けた。

ゲバラは次のように書いている。

しかしいつかは彼らも、自分たちの父親が裏切り行為をしたために革命の正義の前に引き出されたことを知らされなければならない。また彼らとしても、栄誉と富を渇望する一人の農民が賄賂に目がくらんで重罪を犯しかけたが、過ちに気付いて反省したことを知るのは義に適っている。彼は、慈悲にすがろうとは決してしなかった。自分がそれを受けるに値しないことを自覚していた。なお彼の子供たちは、自分たちの父親が最期の一刻に彼らを想い、面倒を見てやって欲しいとわれわれの指導者に頼んだことも知るべきである。
抑圧からの解放のためとはいえ、武装闘争に起つこと(すなわち人を殺すこと)。そしてその過程で発生する裏切りに対して処刑(私刑)を行わざるを得ないこと。これらには究極的ともいえる倫理的葛藤があったろう。だが、ここに挙げたようなゲバラの文章から見えてくるのは、人間という存在に対する彼の深い愛情であり、また、真実というものに対する尊敬の念である。
人間への愛情と真実への尊敬。この二つは、われわれの医療においても根源をなすものではないか。真実告知の問題もまた、基本はここにある。と、私は思うのである。

注1)「チェ 28歳の革命」「チェ 39歳 別れの手紙」
注2)チェ・ゲバラ(1928〜1967):アルゼンチン生まれ。医師。1956年よりキューバ革命に参加。1959年に発足したキューバ革命政府で要職を歴任。1965年、キューバを離れる。1967年、南米革命のためボリビアで山岳ゲリラ戦を戦っていたが政府軍に捕縛、銃殺される。
注3)フィデル・カストロ(1926〜):1959年に勝利したキューバ革命の最高司令官。以来、一貫してキューバの最高権力者として君臨してきたが、2006年、腸内出血で倒れ、大手術を受けて以降、実権は実弟のラウル・カストロに移譲されている。


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