病院の世紀の理論先日、「病院の世紀の理論」という本を読んだ。
著者によれば、20世紀は病院の世紀だったのだ、という。20世紀は病院の世紀であるということの意味の1つは、19世紀は病院の世紀ではない、ということだ。明治維新以降、漢方医から西洋医へ急速に置きかえが進んだ日本は分かるとしても、欧米では19世紀以前から病院という施設は存在する。それなのになぜ、あえて20世紀を病院の世紀だと言うのか? それはこういうことらしい。19世紀以前の病院は救貧施設としての側面が強かった。この時期の富裕層にとって最先端・最良の医療は病院ではなく、かかりつけの医師によって自邸で提供されていた。その後20世紀になってからの治療医学の急速な発展により、「病院の世紀」が始まったのだ、と。さて、病院の世紀の特徴はというと、それは医師の専門家としての高い権威だという。その権威の源泉は、治療医学の急速な発展である。私たちはよくパターナリズムという、医療における権威主義的傾向への批判を目にするが、この権威主義的傾向が生じたのは、たかだかここ百年のことに過ぎないらしい。
20世紀は病院の世紀であるということのもう1つの意味は、21世紀は病院の世紀ではない、ということだ。20世紀は感染症の時代でもあったが、病気の主役は今や生活習慣病に移った。病気に対する目標は治癒よりもQOLに重点が置かれるようになり、治療の価値は絶対的なものではなくなった。人々の健康に関与するプレーヤーの中で、医師の絶対的優位は揺らいでいる。現在の日本における特定看護師などの議論や、たんの吸引などの「医療的ケア」をめぐる議論も、その背景には、実は「病院の世紀の終焉」があるというのが、著者の主張だ。
「病院の世紀」が終焉して、どこへ行くのか?
なかなかに考えさせてくれる、面白い本だ。