被災地で起こっている高齢者の"深層死"「今、東日本大震災の被災地にある高齢者福祉施設では大変なことが起こっている。」と、兵庫県尼崎市にある社会福祉法人理事長の中村大蔵氏が指摘している※。施設入居者の死亡率が異常なほど高い。それも震災前からの入居者であり、地震や津波で身体的損傷を受けなかった人たちであるという。
氏は、阪神大震災の時、特別養護老人ホーム施設長として震災を経験している。この時にも同様の現象が起きた。ある入居者Cさんは、地震後に開かれた入居者の定例懇談会の席上で、職員の「地震、怖かったですか」との問いに、「怖かったけど、知らん顔してた」と答えたそうだ。Cさんは、それなりに認知症がある方だったが、「知らん顔してた」というのは歳がなせるいい表現だと思ったと、中村氏は述べる。だが一方、この言葉は「知らん顔」することでしか、地震の危機から逃れる術がない高齢者の現状を言い当てているとも指摘する。ベッド上で自ら身体を動かすことも出来ず、呼べども誰も駆けつけてくれないことは長年の経験で知っている。夜明け前の時間帯、施設ではとても1人1人の入居者に手が回らない。「知らん顔」して時の過ぎ行くのを待つしかなかったのだ、と。
このような状況下でいつもより多くの入居高齢者が命を落としていった。中村氏は、このような死を"深層死"と命名した。モノ言えぬ、モノ言わぬ高齢者が、大震災という天地激動に遭い、大きなダメージやストレスを受け、それを体内に深く溜めたまま、ついぞそれから解き放たれることなく死んでいっているからである、と。
もう1つ、エピソードがある。中村氏は今回の大震災以降、何度も現地に足を運んでいるが、2泊3日で尼崎の施設に戻ってきた時、入居者のNさんに「長いこと会わんかったな」と声を掛けられた。たった3日の不在でこのように言われる。高齢者にとっての長い短いは、私たちと同じ尺度の絶対的な時間ではない。それとともに、高齢者にとって人の気配を失うことは、とてつもなく寂しいことなのである。広域大災害では介護される側もする側も同じ被災者であり、自分を守ることで精一杯の状態に置かれている。このような中、人との関わりの断絶が拡がっている。被災地で起こっていることは、人との関わりを断絶された結果の死である。氏はこのように述べる。
また、中村氏はこうも指摘する。この出来事は震災という非日常で起こったものであるが、常日頃のわが社会の介護状況の反映でもある、と。この指摘はとても重要だ。少子・高齢化社会での社会保障。そのとき医療は…、そのとき介護は…。10月29・30日に開催される地域医療研究会のテーマである。
※ 中村大蔵:被災地で起こっている高齢者の"深層死"、こぺるNo.222、2011.9.25
※ こぺる:http://www.h7.dion.ne.jp/~k-fujita/koperu/