IZ-News 11年10月号より
感染症と文明

病院内において、われわれは常に様々な感染症と対峙している。院内感染に関しては、一般病棟であれば当院は平均在院日数が20日前後なので、この期間中に患者を院内感染から防御することが目標となる。このように、われわれはある一定の時間感覚の中で感染症と向き合っている。先日、「感染症と文明」という本を読んだ。こちらは感染症とヒトとの関わりについて数百〜数千年という時間軸の中で考察した本である。たまにはこのような本を読んでみるのも、普段と異なる視点で物事を見ることができ、楽しい。

内容の一部を紹介すると、次のような具合である。


さて、こうした史実の一方、次のような興味深い記述もある。
ウイルスのヒトへの適応段階という考え方がある。ウイルスが進化によってヒトへの適応を進め、最終段階まで適応を果たしたウイルスはやがて過剰適応によって消滅する(成人T細胞白血病は日本では陽性率が年々下がっている)が、それが別の問題を生み出す可能性があるという。成人T細胞白血病の平均潜伏期間は50〜60年である。もし潜伏期間が100年になれば、ほとんど無害なウイルスとなる。こうしたウイルスが消滅すると、そのウイルスの生態学的地位を埋めるため、新たに有害なウイルスが出現する可能性が考えられる。同じことはエイズについても言え、もしかすると長期的に見れば、HIVは自らの生存戦略のために無害化の方向で進化が進み、ヒトにとっては危害よりも他のウイルスに対する防波堤としての役割の方が大きくなるかもしれない。そのとき私たちはHIVとの共生に感謝することになるのかもしれない、と著者は言う。ちょっと聞くと暴論のようにも聞こえるが、たしかにそのようなこともあり得るのかもしれない。

細菌やウイルスとヒトとの関わりを考えると、そこにはとても深い世界が横たわっているようだ。


mailto:agrito@mb.pikara.ne.jp