フレンチ・パラドックス先月に引き続いて回帰直線のグラフを欄外に示す。下の図1は、心疾患による死亡率と脂肪摂取量との関係を国別に比較して示したものである。国によって食習慣に違いがあり、脂肪の摂取量が多い国ほど心疾患による死亡率が高いことが分かる。ところが、フランスだけはこの法則が当てはまらない。脂肪摂取が多いにもかかわらず、心疾患による死亡率は低いのだ。これが有名なフレンチ・パラドックス(フランスの逆説)である。この逆説を説明する原因として考えられたのがワインだ。ワインの摂取状況を加味して解析を施すと、フランスのプロットも見事に回帰直線上に乗ってくる(図2)。つまりフランス人はワインの多飲によって心疾患死亡率を下げているということが分かる。そしてこの研究がポリフェノールの発見につながったというのも有名な話である。
この例で分かるのは、一つには、ある事象の発生(この場合、心疾患による死亡率の増減)には、複数の要因(脂肪、ワイン)が関連を持っている場合があること。そしてもう一つには、ある事象を引き起こすと考えられる要因には隠れた別の因子が関与している場合があることである。フレンチ・パラドックスの例でいうと、左図ではあたかも「フランス人であること」という要因が心疾患による死亡率を下げているように見えるが、実は「ワイン摂取」という別の因子が隠れていた。こうした隠れた因子のことを交絡因子という。
似たような例では、飲酒と肺癌の例がある。飲酒をする人ほど肺癌になりやすいという調査結果があるが、飲酒する人には喫煙者が多く、それが肺癌発生に影響している。この場合、飲酒の下に隠れている喫煙という別の因子が交絡因子である。
さて、ある事象が関連する複数の要因を持つ場合の分析方法として、多重ロジスティック回帰分析などの多変量解析がある。私が先日聴いた講演では、病棟での転倒転落について多重ロジスティック回帰分析を行い、この結果にもとづき、従来使用していた13のアセスメント項目を7項目に絞り込み、アセスメントを効率化することでアセスメント実施率を高め、転倒転落を減少させたという報告を行っていた。なかなか参考になる取り組みである。
※出典:小出大介「今日から役立つ臨床疫学・第8回」日本医事新報 No.4533(2011.03.12)