IZUMINO-izm 12年11月号より
獅子と狛犬

狛犬が好きだ。あの、神社の参道などに2頭、対になって鎮座しているオブジェである。多くは獅子舞の獅子に似た、いかつい姿形をしているが、あちこちの狛犬を見ていると、けっこう個性的だったりする。

実は、わが国で狛犬が発生したのは平安時代で、この頃は左右の霊獣は、向かって右側の口を開いている方(阿型)は獅子、左の口を閉じている方(吽型)は狛犬と、区別して呼ばれていたらしい。さらに、狛犬の方は、この頃は角が生えていた。

獅子のモデルは、いわずとしれたライオンである。古代オリエントに生息しており、王権の象徴であったライオンのイメージが遥か極東にまで伝わったものだ。一方、角を持つ狛犬のモデルには諸説あるようだが、一説によるとそれは「かいち」という正邪を分かつ猛獣だそうで、人が闘うところを見れば邪悪な方に挑み、人の論を聞けば不正の方を噛むという、なかなか頼もしい霊獣だそうだ。だが、時代が下るにしたがって獅子と狛犬の差はなくなり、狛犬の角も消えていった。

私が狛犬を面白いと思うようになったきっかけであり、かつ、私が今でも一番好きな狛犬が香北の山の中にいる。それは、御在所山(香美市)にある韮生山祇(にろおやまずみ)神社の狛犬だ。同神社は、安徳天皇と平教盛(清盛の弟)という“大物”を祀っており、山の中腹から山頂の本殿まで至る長い参道に3対6体の狛犬が鎮座している。参道入口、中ほど、本殿前の3箇所である。私が好きなのは参道中ほどの1対だ。台座を見ると、奉納されたのが文久年間(約150年前)だと分かる。

それにしても、こんな山深い場所に、このような愛らしいオブジェがぽつんと佇んでいる。土佐の山中もなかなかに侮りがたいというか、奥が深いのである。

参考)
・上杉千郷:日本全国獅子・狛犬ものがたり、戎光祥出版、2008年
御在所山(デジカメ山行記)


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