IZUMINO-izm 13年11月号より
原理主義と現実主義

TVドラマなどあまり見ない私だが、現在放映中の労働基準監督署(労基署)が舞台のドラマは、結構楽しみに観ている。何故かというとそれは、労災案件の処理などで昔から労基署とは馴染みだからというのもさることながら、このドラマが「原理主義と現実主義の相克」とでもいうべき問題をテーマとしていて、それが私が日々直面しているテーマでもあるからだ。

原理主義とは、己が信ずる原理・原則などをあくまでも貫こうとする考えや態度のこと。それに対して現実主義とは、原理・原則と実際との間にギャップがあることを承認し、現実的な解決を図ろうとする考えや態度のことである。質改善や法令遵守の活動を行っていると、原理主義的に対応すべきか現実主義的に対応すべきか悩まされる局面に度々直面する。必要なのはバランスと心得ているが、実際問題として私はどちらかというとやや原理主義に偏っていると感じるくらいに行動するのが丁度良いと思っている。なぜならば、私もそうだがしばしば人は、現実への単なる拝跪を現実主義という言葉で正当化してしまうきらいがあるからである。病院の場合、それがもたらすものは質改善の停滞であったり、ひどい場合にはモラルハザード(悪徳病院化)であったりする。

さて、件のドラマでは主人公はとびきりの原理主義者なのだが、彼女が信ずる原理(労働者の権利擁護)が現実の大きな壁に直面し脅かされるとき、彼女はいつもカール・ブッセの有名な詩の一節をつぶやく。「山のあなた(彼方)の空遠く、「幸」住むと人のいふ」(訳:上田敏)。この心情はじつによくわかる。あれは、現実の壁を前に立ちすくみそうになりながらも、己が自身の信ずる原理・原則の希求者であることを自己確認するための呪文のようなものなのだ。

私にとっての「山のあなた」といえば「虹の彼方に」だろうか。映画「オズの魔法使い」の主題歌として知られ、「虹の彼方の空高く、夢叶う国があると人のいう」と歌うこの詩のモチーフは「山のあなた」とほぼ同じだ。つぶやきこそしないが、時に無性に聴きたくなり、CDをかけている。私のお気に入りは、イズラエル・カマカヴィウォオレによるハワイアン・バージョン。お薦めである。


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