IZUMINO-izm 14年08月号より
シコクフウロ

「夏がくれば思い出す」といえば、尾瀬、そしてミズバショウと、すぐさま連想される。私の場合、夏の山を代表する花、それはシコクフウロだ。漢字で書けば四国風露。はかなげな名前がまた良い。四国の一定以上の標高の山でふつうに見られ、石鎚の方ではイヨフウロ(伊予風露)と呼ばれる。

高知-徳島県境にある四国を代表する山、三嶺。高知県側のフスベヨリ谷を谷奥まで詰め、きつい登り道を県境稜線近くまで何とか登り、気持良い景色が開けてきたちょうどその辺り、シコクフウロの群落がある。私はこの地点でこの可愛らしい花に出会うと、口に出しこそしないが、「こんにちは、今年もまた会えたね」と、心の中で挨拶をせずにはおれない。

さて、そのフスベヨリ谷の登山ルートだが、2004年の大雨で発生した土石流と近年のシカによる食害とでルートは荒れ、以前の快適な山道を知る者からすると、とても心が痛い。

だが、シカの食害はともかく、風雨によって山が削られる現象は、自然の営みとして過去何万年と普通に続いてきたことなのである。今の谷の荒廃も、何万年という年月の中の単なる一局面に過ぎない。そう思い、土石流の後、私は数年に一度、フスベヨリ谷最奥のヌスビト岩付近まで来ると、決まって辺りの景色を写真で撮るようになった。つまり、自然回復の定点観測である。

そんな私のちっぽけな営為とはお構いなしに、この何万年ものあいだ、あの群落のシコクフウロたちは競って花を咲かせてきた。そして今頃、機嫌よく風に揺れているのだろう。


※三嶺:正式には“みうね”だが、“さんれい”と呼びたい。標高1,893m。


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