IZUMINO-izm 14年11月号より
宇沢先生逝く

本年9月18日、宇沢弘文氏が亡くなった。氏は高名な経済学者。先日(10月30日)テレビ放映されたクローズアップ現代(NHK)でも「人間のための経済学」として、氏の業績が紹介されていた。数ある氏の著作の中で私が読んだことがあるのは「自動車の社会的費用※1」「成田とは何か※2」「社会的共通資本※3」の3冊。 「自動車-」「成田-」は共に、人間の生活を便利にするためにあるはずの自動車や空港が他方で人々(歩行者や幹線道路の沿線住民、空港建設により農地を奪われる農民など)から人間らしく生きる権利を奪っており、こうした問題を経済学の問題として解決する方策について考察した書。また、このような思索のひとつの帰結として宇沢氏が提唱したのが「社会的共通資本」という概念。

社会的共通資本とは医療や教育、自然など人が人間らしく生きるために欠かせないものを指す。これらは市場競争に任せず、人々が共同で守る財産にし、その基盤を確保した上で、企業などによる市場競争があるべきだと、宇沢氏は提唱した。氏の提起は、われわれ現代社会を生きるものにとってとても重要なものと、私は思っている。皆さんも機会があったらぜひ、氏の著作に触れていただけたらと思う。

さて、「社会的共通資本としての医療」という観点で医療政策について考えるとき、いま非常に重大な意味を持つと私が気になっているのが「地域医療構想(ビジョン)」という、これから各都道府県で策定が始まることが決まっている地域医療計画構想である。このことについては、また別稿で紹介したいと思う。今回はさしあたり予告のみで失礼する。

※1.自動車の社会的費用:岩波新書、1974年
※2.「成田」とは何か:岩波新書、1992年
※3.社会的共通資本:岩波新書、2000年


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