IZUMINO-izm 15年02月号より
近江泥棒、伊勢乞食

「近江泥棒、伊勢乞食」という言葉がある。Wikipediaなどによると、江戸時代、当時隆盛を誇っていた近江商人や伊勢商人に対し、江戸っ子がやっかみからいった言葉だそうだ。だが、なぜ近江が泥棒で、伊勢が乞食なのか? 三重県出身の私は、初めてこの言葉を聞いた高校生の頃から、これは両県の県民性を表していると、ずっと思ってきた。つまり、生活に困窮したとき、泥棒してでも生きようとするたくましさを持っているのが近江人で、乞食に身をやつすことはあっても他人の財物は盗らないというルールを厳格に守り通そうとするのが伊勢人だと。つまり、近江人は現実主義者で、伊勢人は原理主義者。

この解釈には、やや伊勢人への身びいきがあるかもしれない。しかし、伊勢人を原理主義志向とみなすことにあながち根拠がないわけではない。「伊勢っ子正直」というのは、当地ではメジャーな標語である。「正直」に大きな価値を置くことはすなわち、原理原則やルールなどに対する遵守志向が強いということである。三重県民にこの志向が強いのは事実だ。だいいち、私の名前が正で、私の1歳上の姉の名が直美。2人合わせて正直姉弟。私は、私の亡父が生前「生まれた子の名前は、男なら正、女なら直美と決めていた」と言っていたのを記憶している。私は、遅くとも出生の1年前から、原理主義者として育つよう、仕向けられていたわけだ。

さて。この度、民主党の代表に再選された岡田克也氏。彼こそは文字通り、伊勢商人の末裔である。彼の実兄が代表を務めるイオングループ(かつて岡田屋といった)は、伊勢商人の流れを汲んでいる。で、岡田克也氏の「原理主義者」ぶりはつとに有名である。私は、彼の原理主義の背景には伊勢商人の気質があると見ている。そうした気質に根差した原理主義と、柔軟な現実主義。この2つのバランスを彼が今後いかにうまく取っていくか。私はひそかに注目しているのである。


mailto:agrito@mb.pikara.ne.jp