かぜうどん二代目桂枝雀(1939〜1999)が好きだ。彼の落語の中で、おそらく十八番の一つに数えられる演目に「かぜうどん」がある。
路地を流す夜なきうどんの情景を描く冬の噺なのだが、私が知る限りでは、マクラで枝雀は色々な夏の行商人を演じるのが常だった。太陽に見立てた禿頭を客席に向け、「お日ィさんがカーーッ!」と叫んで夏の日射しを表現した後、金魚売りは眠たげに、かち割り氷売りはやかましく、売り声を上げる。それらはどれも実におかしくも、風情があった。
夏の行商人を一通り演じ終えると、枝雀はやおら座布団の上で半立ちになり、上体を捻って着物を身体に巻き付けながら「北風がヒューーッ!」と叫んで木枯らしを表現する。その途端、会場は夏の昼下がりから真冬の夜の情景へと一変し、落語はいよいよ本題へ突入する。ふーふー言いながらうどんをすする仕草の寒くてあったかい様子を見ていると、こちらまで幸福な感じになってくる。
細かいストーリーの紹介は省くが、サゲはこうである。ひそひそ声(実はかすれ声)でうどんを注文する客の様子を見て、ある期待を抱いて同じようにひそひそ声で応対するうどん屋台の主人。その主人に向かって客が言う。「お前も風邪ひいてんのんか?」
年も暮れのこの時期。風邪やインフルエンザにかからないよう、皆さんご自愛ください。