天使とは、苦悩する者のために戦う者「天使とは、美しい花をまき散らすのではなく、苦悩する者のために戦う者だ」。これはかのフローレンス・ナイチンゲール(1820〜1910)の言葉である。良く知られるように、彼女はクリミア戦争のさい、「クリミアの天使」と讃えられ、また、こんにちの戴帽式の時の「ナイチンゲール誓詞」の印象からも、世間の多くは、彼女に対して「清く、美しく、ロマンチック」というイメージを抱いているのではないだろうか。
だが、まんが版「ナイチンゲール伝※」の著者、茨木保氏は同書の中で次のように述べている。
クリミアで地獄を見た後の彼女の隠遁生活は、世間一般に広まっている「白衣の天使」といったロマンチックなイメージとは正反対の陰鬱なものです。(中略)ナイチンゲールは矛盾に満ちた存在でした。優しさと冷徹さ、謙虚と傲慢、知的で計算高く、不器用で純粋、慈愛に満ちそれでいて残酷……人間は誰しもそうした混沌をはらんだものですが、その振れ幅の大きさが彼女の面白いところです。そして、彼女のその隠遁(=引きこもり)生活の中から、英国陸軍、ひいては英国全体の医療、看護、公衆衛生等に関する膨大な提言や報告書が生まれ、名著「看護覚え書」が生まれた。現代看護学の基礎を作り、看護師という仕事を高度な専門職として確立したのも、彼女の功績とされている。 そんな「戦士としてのナイチンゲール」の人生と仕事について考え、ひるがえって今われわれが直面している「戦い」とは何か考えてみる。それもまた、なかなか乙なものである。
※ 茨木保:ナイチンゲール伝、医学書院、2014年