IZUMINO-izm 18年04月号より
抗生物質と人間

抗菌薬の適正使用は現在、世界的な課題である。わが国でも、本年の診療報酬改定で抗菌薬適正使用支援加算が新設されるなど、呼応した動きがあるのはご存じの通り。そんな中、「抗生物質と人間」※1という本を読んだのだが、実に面白かった。本書によると、抗生物質過剰使用の問題点は耐性菌だけではない。問題は、マイクロバイオームの攪乱にこそある、という。

本書の物語は、地球上に最初の生命が誕生した約40億年前から始まる。以来、永い時を経て、地球は「微生物の惑星」となった。われわれ大型多細胞生物は、微生物に満ち溢れた惑星の「片隅に暮らす住人」に過ぎない。そして、微生物たちは、ヒト個体の中にも一つの宇宙をつくり出している。それをヒト・マイクロバイオームと呼ぶ。

マイクロバイオームの働きは、近年、次第に知られるようになってきた(例えば※2の例)。ヒトの常在細菌は、ことに宿主(=ヒト)の免疫機能発現に深く関わっている。なので、マイクロバイオームが攪乱されることが健康上の様々な不具合となって現れることは、実にあり得ることなのだ。著者によれば、人類の歴史上、共生細菌叢の大きな変化は、過去少なくとも3回あった。まず、火の利用による加熱調理の開始。次いで狩猟採集生活から農耕への変化。そして20世紀に始まった抗生物質の使用(加えて高糖分、高脂質の食生活)である。

フレミングがペニシリンを発見したのが1928年。大量生産開始は1943年。その後、次々と新たな抗菌薬が開発された。一方、肥満、アレルギー疾患、糖尿病、自己免疫疾患などはこの半世紀ほどの間に発生が急増している。その背後にマイクロバイオームの攪乱があると、多くの研究者が考え始めている。著者はそう述べる。

事の真偽はよく分からない。だが、壮大な文明史、さらには生命40億年の歴史から細菌-ヒト-抗生物質の関係を考察する本書の内容はじつに刺激的である。ご一読をお勧めする。


※1)山本太郎:抗生物質と人間、岩波新書、2017年

※2)パプアニューギニア高地人と窒素源の有効活用(理研ニュースNo.175、1996.01)

http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/publications/news/1996/rn199601.pdf

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