おばあさん仮説おばあさん仮説(grandmother hypothesis)と呼ばれる理論がある。ヒトの女性には閉経という現象がある。また、ヒトの女性は閉経後も非常に長く生きる。これは哺乳類にはまれな現象である。また、約700万年前にヒトとチンパンジーがお互いの共通祖先から分かれたのち、ヒト属は数々の分化、進化、絶滅を繰り返し、最後(約20万年前)に登場したホモ・サピエンス(現生人類)のみが生き残ったのだが、「おばあさん」の存在は、どうやらホモ・サピエンス以外では認められていないらしい。だから、もしかしたら人類の生存にとって「おばあさん」の存在は有利に働いたのかもしれない。あるいは「おばあさん」が存在したからこそ、ホモ・サピエンスは絶滅を免れたのかもしれない※。これをおばあさん仮説という。
なぜおばあさんの存在が有利かというと、ひとつには、おばあさんが母親の育児の一部を請け負うことで母親が多数の子供を出産できること。また、もうひとつの理由として、おばあさんの経験知によって出産の安全性が増すこと。これらによって人口が増し、アフリカで生まれたホモ・サピエンスはやがて全世界へ進出(=いわゆる「出アフリカ」)したと考えられる。
こう考えると、「おばあさん」というのは、じつに偉大な存在なのだ。昨今、少子高齢化の弊害が叫ばれ、高齢者はあたかも社会のお荷物であるかのように扱われがちだが、人類がこれまで絶滅せずに来られたのがおばあさんのおかげだとすると、われわれはみな、おばあさんに感謝せねばならない。もっとも、このおばあさん仮説だと、「おじいさん」の存在が希薄になってしまう。それが少々気がかりではあるのだが……。
※ 現生人類と他の絶滅した人類とを隔てた大きな違いとしては、他に「構音能力の違い」などが考えられている。