IZUMINO-izm 20年06月号より
慢性炎症(サイレントキラー)

講談社ブルーバックスは、創刊57年を数える自然科学系の新書シリーズである。私が中学生の時、ブルーバックスを読むのが仲間うちで流行り、私もファンになった。それから50年近く経った今も、たまに本屋で新刊をチェックしては買っている。最近の一押しが、宮坂昌之/定岡恵著「免疫と「病」の科学」※※である。

本書は、ヒトの免疫システムと炎症、ことに慢性炎症と疾病の関わりについて論じた書。慢性炎症はサイレントキラーとも呼ばれ、きわめて多くの疾患と関わっていることが近年、明らかにされてきている。本書でも、取り上げられている疾患は、がん、糖尿病、脂質異常症、痛風、心筋梗塞、脳梗塞、肝炎・肝硬変、アトピー性皮膚炎、乾癬、喘息、COPD、特発性肺線維症、悪性中皮腫、関節リウマチ、アルツハイマー病、うつ病、多発性硬化症、クローン病、潰瘍性大腸炎など数多い。さらに、疾患ではないが、肥満、老化についても論じている。肥満、老化も、実は炎症との関わりが深いのだ。

新型コロナウイルス感染のまん延に関連して、近ごろよく目にするようになったサイトカインストームにまではさすがに本書は触れていないが、炎症の促進や抑制に働く様々なサイトカイン(生理活性タンパク質)や補助刺激分子について詳しく書かれているので、ストーム(嵐)のようなことが起きる機序についても、何となく感覚的には理解できる。

また、いわゆる分子標的薬、がん免疫療法など、免疫と関わりの深い、近年の治療法についての解説も分かりやすくて良い。専門書ではないからといって、なかなか馬鹿にできない。良書である。


※ 私の中学時代のブルーバックス体験については、次号で書く予定。
※※ 宮坂昌之/定岡恵:免疫と「病」の科学、講談社ブルーバックス、2018年
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