IZUMINO-izm 21年04月号より
アケボノツツジとカチカチ山

里で桜が散ると、山はツツジ類の季節である。四国の山で出会うツツジの中で、私がもっとも心惹かれる花は、何といってもアケボノツツジだ。艶やかでありながらノーブル。そして、どこか孤高の風情がある。山道で突然出会ったときなど、思わず「アケボノツツジぃーっ!!」と黄色い歓声を上げてしまう(もちろん心の中でだ)。私がアケボノツツジに抱くこの感覚を表現するのに、何かうまい文章がどこかになかったかと思い出してみたのだが、ひとつ思い当たった。太宰治のカチカチ山(「お伽草子」より)である。

カチカチ山の物語における兎は少女、そうしてあの惨めな敗北を喫する狸は、その兎の少女を恋している醜男。これはもう疑いを容れぬ厳然たる事実のように私には思われる。(略)
ぽかん、ぽかん、と無慈悲の櫂が頭上に降る。狸は夕陽にきらきら輝く湖面に浮きつ沈みつ、「あいたたた、あいたたた、ひどいじゃないか。おれは、お前にどんな悪いことをしたのだ。惚れたが悪いか。」と言って、ぐっと沈んでそれっきり。
兎は顔を拭いて、「おおひどい汗」と言った。
……狸の死ぬるいまわの際の一言……
曰く、惚れたが悪いか。
その通り。私が狸なら、アケボノツツジは兎である。曰く、惚れたが悪いか!
※「惚れたが悪いか」という命題について。惚れた対象が花なら問題はないが、もし人だとすると問題が生じるケースがあり得る。ことにセクハラに該当するような場合、「惚れたが悪いか」では済まされないに違いない。

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