IZUMINO-izm 24年8月号より
樹状細胞

赤血球、白血球など、人体を構成する細胞を擬人化したアニメ「はたらく細胞」が、本年4月からEテレで放映されている。私は第1シーズン第1話を新聞のラテ欄でたまたま目にし、視聴して以来、毎回欠かさず視聴している。擬人化アニメなので、登場するキャラクターたち(=細胞である)をついつい知人の誰かや自分自身に重ねて見てしまったりする。私の場合であれば、さしずめ樹状細胞ということになろうか…。

樹状細胞とは、その名の通り、細胞表面に木の枝のような突起を多数持った細胞で、白血球の一種。主な役割としては、抗原提示細胞としてのはたらきがある。そのメカニズムを簡単にいうと、以下のようになる。まず、抗原である異物が樹状細胞内に取り込まれる。これを貪食という。異物は細胞内でバラバラにされ、その破片がMHC1)と呼ばれる構造物と結合する。抗原と結合したMHCはベルトコンベアのように細胞内を運ばれ、細胞表面に発現する。宮坂昌之氏(大阪大学)は、MHCをエサ台、抗原をエサに例えている。2)そして、小鳥がエサ台からエサをついばむように、T細胞などの免疫細胞は、樹状細胞表面にあるMHCから抗原を受け取るというのである。宮坂氏はエサとエサ台というが、情報伝達の観点からすると、これは人相書きと高札に例えても良いのではないだろうか。樹状細胞は高札に人相書きを掲げ、情報を受け取ったT細胞たちは、岡っ引きよろしく犯人(抗原)の捕縛に取りかかると……。

このように考えると、私の主要な仕事も情報伝達であり、樹状細胞に似ている。自院の業績情報や方針、行政、医療保険制度情報、医療界のトレンド情報などを医師や部署長などにせっせと伝え、患者や病院経営の持続可能性向上のために効果的に働いていただくよう促す。

また、樹状細胞には、まだ一度も抗原に出会ったことのないナイーブT細胞に抗原を提示することで、ナイーブT細胞を活性化し、エフェクターT細胞への分化を誘導する働きもある。アニメ「はたらく細胞」でも、弱っちいナイーブT細胞が樹状細胞によって活性化され、筋肉モリモリのエフェクターT細胞に変身する場面があった。ま、いわば、新人育成か。私の場合、私の情報提供が新人育成に一役買っているかどうか、そこのところは良く分からず、自信がない。役に立っていれば良いのだが。

さて、そのビジュアルから樹状細胞を擬人化しようとすると、千手観音のような、グロテスクな造形のキャラクターになってしまいそうである。「はたらく細胞」ではそうはせず、彼の職場を大きな木の洞に作った郵便局(つまり樹状)にし、細胞自身は緑色の制服を着た、癒やし系っぽいお兄さんとして描いている。ただ、もっとも、実際の樹状細胞は、T細胞の活性化だけではなく不活化にも関与しており、癒やし系とばかり言い切れぬ、ダークな側面も持っていそうである。で、たとえそうだとしても、そうした部分も含めて、ヒトの身体の中では重要な「仕事人」ということなのだろう。私もあやかりたいものだ。


1)MHC:主要組織適合性複合体(Major Histocompatibility Complex)の略。ヒトのMHCはHLA(Human Leukocyte Antigen;ヒト白血球抗原)と呼ばれる。よく知られるように、HLAは一種の血液型のようなもので、免疫作用における敵/味方の識別に関わっている。つまりMHCは、自己認識のための名札でありかつ、本稿で述べたような、抗原提示作用におけるエサ台でもある。

2)宮坂昌之:免疫と「病」の科学、講談社ブルーバックス、2018年


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