震災は終わらない

 
三津教会 広瀬満和
 東日本大震災3年目の歩みが始まった。この時期を表わす言葉がいくつかある。「震災から2年」「2年前の大震災」「震災後2年」、いずれも震災を2年前に追いやった言 い方 のように思える。「震災2周年」というのも震災をメモリアルの域に置いた感が否めない。今回の訪問で出会った方々から、異口同音に語られたことがある。「被災地外から訪ねて来る人によく言われる言葉で一番堪えるのは、『落ち着きましたか?』『大変でしたね』と過去形で言われることです。いつになったら落ち着くのかわからないし、どうなったら落ち着いたと言えるのかもわからない。2年前と比べれば落ち着いたとも言えるし、かといって落ち着いたとも言えない。大変なのは今もそうだし、それは変わっていないだけではなくて、また別のことで大変なんです。」語り口は穏やかで優しく笑顔で語られるので、よけい身に詰まされる。そして私自身の、今年18年を経た阪神淡路大震災を体験した(して いる)者としての思いが重なる。

 昨年2月に宮古を訪問したとき、やはり同じようなことを宮古教会の方々と語り合ったことを思い出す。まだ震災1年を迎える前のことだ。その方は私にこう問われた「来て下さる方から『皆さんが立ち上がれるまで私たちは支援します』と言われるんだけど、いつどんな状態を立ち上がったと言うのでしょう。先生(私のこと)は阪神大震災からいつ立ち上がられました?」。そのとき私はこう答えている。―その問いに答えることはたしかに難しい。たとえば失われた家が再建したら、職が回復したら、立ち上がったと言えるか。私の場合、住んでいたところを失い、職は自ら投げ打って救援ボランティア活動に身を投じた。その後に牧師となったとき、友人から「よりによって 震災にこだわる職を選んだ」と言われた。牧師の道を歩み出したことは、震災から立ち上がったことになるのか、震災を引きずっていることになるのか、私にはわからない。けれども、震災はきっと、その後の人生に刻まれるのだと思う。―

 震災はまだ終わっていない。それは一つには、復興が遅々として進んでいないということがある。仮設住宅での暮らしはいつ終わるかわからない。津波浸水地域の復興計画が決まらなければ次に進むことができない。産業の回復もこれからだ。福島の原発事故は終息まで3040年かかると言われているが、大量の放射性廃棄物をどう処理するかのめどさえ立っておらず、次の世代まで放射能汚染の不安が続く。でも、それだけではない。復興の過程でまた新たな問題が起こ る、年月を経て初めて明らかになっていくこともある。復興はけっして一方向に進んでいくのではなく、後退することもあれば、振り出しに戻ることだってあるのだ。そのたびに被災地は、新たな「余震」に見舞われる。被災地は今もなお震災の只中にあって、被災された方々は、今もなお被災を受け続けておられることを忘れてはならない。

 では、震災はいつ終わるのか。実は、被災された方々の思いとは関係なく、外側から震災は終わらされていく。様々な支援や措置の縮小、打ち切り、撤退。福島の避難区域解除もその一つだが、それは公的なものだけではない。阪神大震災の3年目が過ぎようとしていた頃から顕著に言われ始めた言葉ある。「いつまで震災、震災って言ってるの?」「そろそろ震災のこ とは忘れて、前を向きなさい」・・・。過去形の言葉であっても向き合えているうちはまだ良くて、そのうち支援者が背を向ける時が来るのだ。いや、そのような時がきてはいけない。今回の震災では、このような言葉が聞かれないことを、切に、切に願って止まない。

 被災した者にとって、震災は終わらない。震災を刻み込んだ人生がそこから始まるのだ。被災地外の者にとって、一方的な支援はいつか終わるだろう。けれども、震災を人生に刻み込んだ方々との交流は、今始まったばかりだ。以前の震災体験者による支援は息が長い、というのを聞かれたことがあると思う。それは震災の辛さをよく知っているからだと言われるが、それだけではない。一方的な支援ではなく、震災を刻み込んだ者同士の交流 だから、終わることがないのだ。震災を体験した者は、それ以前とそれ以後の両方を知っている。でも震災を体験していない者は、片方しか知らない。だから交流を始めるには、体験していない者が震災を学ばなければならない、震災体験に寄り添わなければいけない。それは、第三者としての学びや寄り添いではなく、未来にあるかもしれない震災体験の先取りだ。自らに刻む仮想体験だ。そして、そこから新たな、掛け替えのない交流が始まる。震災に終わりを告げることは、震災を知らなかったこっちに戻っておいでと言うに等しい。そこからは、一方的な支援はできたとしても、交流は成立しない。

「エマオへの道・四国」
〒791-8031 松山市北斎院町58-3 日本キリスト教団さや教会内
emaoshikoku@gmail.com