Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 恋運び銀猫 


 森の中。
 いちばん大きな木の上で。
 一人のエルフが、頑張っていた。

「ん、ん〜!」
 幹に手を置いて、精一杯、枝の方へ手を伸ばす。
 けれども、彼が求める場所へは届かない。
「はぁ……ごめんね。」
 疲れて、幹にもたれかかる。
 その枝には、今、猫がいる。
 どうやら、降りられなくなってしまったらしい。
 手を伸ばしてくれている救い手である彼を見て、にゃーっと鳴いた。
「ごめんね……僕の手が、足りないから。」
 それに高い場所で、足元もおぼつかない。
 魔法が使えるわけではない彼にとって、この場所は悪すぎた。
 けれど、もう一度深呼吸。
 そしてゆっくり、前へ一歩、踏み出した。

 枝がきしむ。
 その枝をなだめながら、彼は前へと歩み寄った。
 綺麗な毛並みの銀猫は、大人しく待っている。
「ほら、もうすぐだから。待って。」
 バランスを取りながら、折れそうな枝を何とかもたせながら、彼はそろそろと手を伸ばす。
 と、猫がおずおずと動き。
「にゃー」
 彼の手に擦り寄った。
 思わず、微笑みを浮かべる。
「おいで。早く。今なら、折れないよ。怖くないよ。」
 言葉が通じたのか、猫はもう一度鳴くと、彼の手を避けて歩きだした。
 そして、ようやく彼のところに辿り着く。
 みゃーっとないて、うれしげに彼を見上げた。
「よかった……。ありがとうね。」
 助けてくれた木にお礼を言うと、彼は猫を抱いて、太い幹へと戻る。
 あとは、降りるだけだ。
 と、その時。
「ミオ!」
 男の声が、聞こえる。
 切羽詰ったような男の声に反応して、猫がみゃぁと鳴いた。
「ご主人様?」
 今度は、肯定するようになく。
 彼は微笑むと、猫の喉を撫でた。
「すぐに下ろしてあげるからね。」
 そしてその言葉どおり、猫は数分後に、地面の上に降りたのである。
 お礼を言うように一鳴きしてから、猫は彼のもとから去ってしまった。


 あくる日。
 彼はやっぱり森の中にいた。
 今度は、川のそばである。
 その時、見覚えのある毛皮が前をとおった。
「昨日の……」
 銀猫だ。
 猫は彼に気付いたらしく、みゃ―っと鳴いた。
 そして、川の浅瀬を通って、彼の足元に擦り寄る。
「ご主人様には会えた?」
 猫はやはり嬉しそうに擦り寄るばかりだ。
 その時、大きな足音と共に、大きな声が近付いてきた。
「ミオ!そんなに急いで……!」
 男は、そのまま動きを止めてしまった。
 完全に彫刻と化した男に、彼はころころと笑う。
「ごめんなさい。この子、ミオ?」
「あ、あぁ。」
 何故か、ぼーっとした調子で答えられ、彼は首を傾げる。
 けれどもどうでもいいと思い直したのか、にこりと微笑んだ。
「良い子だね。」
「あ、あぁ……。」
 結局、男はそれしか話さなかった。


 それから毎日のように、森には銀の猫がやってきて。
 ついでに飼い主もやってきて。
 エルフの一人と話して帰っていくようになる。
 いずれ男が自ら語るが、『綺麗なエルフに落ちてしまった』らしい。
 とりあえず今は、銀の猫をはさんで、会話する。
 照れくさそうに笑う飼い主を見て、銀の猫はみゃーっと、情けなそうに鳴いていた。


 END



飛翔さんvv ステキなお話をありがとうございましたvv
エルフですよvv エルフvv
一生懸命なエルフ、いいですねぇvv
で、この二人はこれからどうなるのでしょう?
邪な考えが高瀬を幸せにしてくれてます>こらこら。

本当に本当にありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いします(^^)