Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 エルフが住む森 


 絹のような金のさらさらな髪。
 気高そうな尖った耳。
 今は閉じている目蓋の下には、碧の瞳がある。
 恐ろしいほどに整った容貌を見て、彼はほぅっと溜め息をついた。
 今でも時折、信じられないのだ。
 彼が、自分をパートナーに選んでくれた事を。


 遡れば、五年前。
 彼が、吟遊詩人になるために村を飛び出してから、ほんの少し後の話である。


「やべ・・・迷った。」
 慣れない森に、歌を探しに入る事が間違えだったのか。
 彼は、狂ってしまった磁石を見て、はぁっと溜め息をついた。
 今はまだ、昼過ぎだろうか。太陽は丁度真上にあり、それだけが彼にとって救いに思えた。
 美しい森の中に、エルフが住んでいると聞いて、いてもたってもいられずに、無謀にも一人で乗り込んでしまったのだ。
 座り込んだ彼は、手に握り締めてきた楽器を握った。
 この楽器は、とても珍しい弦楽器だ。彼の村に伝わる唯一の音源だと言ってもいい。
 この音は、時には鋭く、そして時には柔らかく変化する。その使い方はとても難しく、なれていない人が演奏すると雑音にしかならないという。
 彼自身、何度も練習して、やっと弾きこなせるようになったのだ。
「はぁ・・・」
 溜め息をついた彼は、ぽろんとその弦を鳴らす。
 弦は振動するが、すぐに森の静寂に消えてしまった。
「はぁ。どうしよっかな。」
 ぼうっとしている彼の耳に、ふと水の音が聞こえた。本当にかすかな音で、先ほどまでは聞こえなかったはずなのだが、そんなことを不思議に思うよりも、彼は休む事を選んだ。
 少なくとも、これで飢餓の心配はなくなった。それに川下まで降りていけば、うまくいけば帰れるかもしれない。
 そう思うと、彼は一気に立ち上がり、大切な楽器を脇に抱えながら、水の音のするほうへと歩いていった。


「うわ・・・・・・」
 突如開けた視界には、美しい草原が広がっていた。そして、自分の直ぐ近く、草原の入口付近には、細い川が流れている。
 川辺に歩み寄ると、そこには小さな魚達が泳いでいた。
「・・・・・・綺麗だ。」
 彼にはそれしか言い表せなかった。
 それ以上も以下も、その風景にふさわしい言葉を知らなかったからだ。
 だが覗き込むと、魚たちは逃げてしまった。
「ごめんな。」
 喉が渇いていることに思い至った彼は、その水をすくおうと川に手を入れた。
「つめたっ!」
 あまりにも冷たく、つい手を離す。そしてもう一度入れると、水をゆっくりと口許に運んだ。
 美味しい。
 彼は、あまりにも美味しい水に、今度は言葉を失った。そして、もう一口、もう一口、と、喉の渇きが癒えるまで飲んだ。
 そしてゆっくり空を見る。
 まだ太陽は、左程動いていない。だが、熱くもなく寒くもないこの場所は、とても心地よかった。
 草原にゆっくり寝転がる。
 そして、彼は楽器を手に取った。


   美しい調べが、楽器から流れ出す。
 それはまるで、水の流れのような調べだった。
 うっとりと陶酔している彼は気付かない。直ぐ近くに、自分以外の誰かがいる事も。
 そして曲はフィナーレに近付き、彼はふと瞳を開けた。
 その瞳の前で、エルフが踊っているとも知らずに。


「――!」
 声にならない声をあげた彼は、それでも曲を引き続けた。
 一人のエルフは、彼が気付いたことに気付いたようだったが、にっこり微笑んでいた。
 そして、曲が最後を迎える。
 同時にエルフは、美しい薄い金の髪から光を振りまき、タンッと立った。
 静寂。
 森の中の静寂を破ったのは、今度はエルフだった。
「あなたの曲、綺麗だ。」


   それから、二人は語り合って、エルフは彼についていくことを決めた。
 彼は、探していたのだそうだ。言わば――
「僕が踊りたいと思える歌を歌う人。」を。
 そして、エルフの中だけではなく色々探し回っていて、結局見つからずに帰ってきたところで、彼が曲を弾いていたのだ。
「嬉しかった。」
 エルフはそう言って、微笑した。
「あなたのように、歌わせる人に出会えて。」
 彼は、その率直な言葉に、カァッと赤面していた。


  「ん・・・」
 碧の瞳が、ゆっくりと開く。彼は、大切なパートナーに微笑みかけた。
「おはよう。」
「うん、おはよう。」
 エルフは、彼に笑いかけた。
 現在、彼らは有名になった。
 どこの町からも歓迎を受ける、旅芸人になった。
 例え戦をしていようとも、どんなところでも彼らは手厚い歓迎を受けた。
「もうすぐ出ないと、報酬がたくさん来るぞ。」
 昨夜も踊り、本当に少しのお金を貰った。というより、彼らにはそれでも充分すぎるお金だったのだが。
 下手に朝まで残っていると、それ以上の報酬を貰う事になる。
「まっててくれたんだ。」
 エルフはそう言うと、直ぐに立ち上がった。
 細く白い肢体は、すばらしいばねがある。それがあそこまで美しい踊りを可能にしているのだろう。
「大切なパートナーだからな。」
 彼はその手に、敬愛を持って口づけると、にっこり微笑んだ。
「さぁ、行こう。」


 彼らは留まる事はない。
 新しいものを探すために、また旅立つのだ。
 彼らは向上心を忘れない。
 いつの日も二人で、きっと歌い、踊りつづけているのだろう。


 終わり。



飛翔さんvv ステキなお話をありがとうございましたvv

エルフだvv エルフvv
飛翔さんらしいやわらかい雰囲気の2人♪
続きが読みたいです♪

本当にありがとうございました!!