Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 衣装 


「浮かない顔をして……。城は気に入らなかったと見える」

 入隊式の後、不機嫌そうに転がり込んできた友人を迎え入れて、ヴァイラスはそう呟いて見せた。
 そう評された当の本人は、窓から外を見上げ、木々の間を行き来する鳥たちに視線を奪われているようである。
 双頭の竜が刺繍された真っ白な騎士服。騎士の国ラストア王国の中でも、選ばれた小数の近衛隊だけしか着用することを許されない、その衣装を纏って――。

 先日の剣術大会での功績が高く評価されての、近衛隊入隊だった。

 このラストア王国で、史上最年少での誉れ高い栄誉。

 神童と称えられ、皆の羨望を一身に受け、それでも、この目の前に立つ少年の頭の中は、別のことで一杯のようであった。この国の騎士隊長を父に持ち、溢れる才能を見事に開花させ、おおよそ常人が手に入れられないような幸福を手にしながら。

 全く、彼らしいといえば、彼らしい。

 それが、ヴァイラスには、羨ましくもあり、憎らしくもあった。

「……素直に喜んでみたら? ジークディード。」
 紅茶を片手に、ヴァイラスが窓辺に立つジークに近付く。
 そうして、窓の外を見つめたままのジークの背中に、
「……まだ、『生きる意味』とやらに拘ってるのか」
と小さくそう告げた。

「お前は?」
 くるりと振り返り、ジークが真っ直ぐな視線を投げ掛けてくる。
 その問いには答えず、手にした紅茶をジークに差し出して、ヴァイラスは窓の外に視線を送った。
 木漏れ陽がきらきらと世界に降り注ぐ美しい光景を、その蒼い瞳に映す。

「私の狂気で世界を滅ぼすためと、そう答えろとでも?」
 ジークに視線を戻して、ヴァイラスはそう答えた。

 遠くで、鳥の囀る声だけが、やけに大きく聞こえるような気がした。

「くすくす。そんな困った顔をしなくても、冗談に決まってる。つまらない予言のために、似合わない服を着せられている我が身を、ほんの少し疎ましく思っただけ」
 木漏れ陽を受けてやわらかい光を纏う、若草色の神官衣を広げて見せながら、ヴァイラスは笑ってみせた。肩で切り揃えられた見事な銀髪が、光を浴びて輝いて見える。

「似合う、と、少なくとも俺はそう思う」
 窓から射し込む光を背にしたまま、ジークはそう言葉にした。
 深い漆黒の瞳で、まっすぐにヴァイラスを見つめる。

「……だといいけど」
 ジークから視線を外して、ヴァイラスはそう呟いた。
                     ……Fin.




Index

最後までお付き合い下さりありがとうございました!!
もしよろしければ、ポチッと押してやって下さい(^^) →