Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 焦らし 


「……そうだな。強烈に惹かれた」
 ほんの少し首を傾げて考える仕草をした後、ロイはそう肯定した。

 ハサードが色違いの瞳を細めて、小さく口笛を鳴らした。
 フォードが楽しそうに、いつもの人懐こい笑みを浮かべた。

 そして、ジークが、不機嫌そうに舌打ちをした。

「ロイ、上がるぞ」
 ロイの細い腕を掴んで立たせると、ジークはそう促した。ジークに身を任せながら、ロイがくすりと微笑む。
 色気が増した、ハサードに言われるまでもなく、ロイの美しさが増していることにはジークも気付いていた。今この瞬間も吸い寄せられるように視線が集まっている。

「まだ宵の口じゃねぇか」
 そう言って、ハサードはロイの腕を掴むと、その腕を軽く引いた。もう一度舌打ちして、ジークが静かな怒りを湛えた漆黒の瞳でハサードを射抜いた。
「これ以上、一秒たりともてめぇらの傍には置けねぇ」
 迫力ある低音の声がそう告げる。
 何とも言えない緊迫感がその場を支配した。



 4人が久しぶりに再会したのはつい先程のことである。
 何年振りになるだろう、ジークとロイはここシーランスを訪れた。今夜の宿を決め、まずは夕食、と階下の食堂に降りたところで、フォードとハサードに出迎えられたのである。
 当然のようにそのまま杯を交わし、他愛無い話で盛り上がっていた。

 その爆弾発言に行き着いたきっかけは何だったか――。

「……ハサード、鼻の下伸ばしてんじゃねぇよ」
「だって、ロイ、色気増してねぇ?」
 フォードに指摘され、ハサードはそう言い訳した。
 もともと際立った美しさだったのは、ハサードも十分承知していた。だが、再会したロイはその美しさが数倍増しになったようなそんな気がした。
 蒼み掛かった黒髪は、ロイの仕草一つに呼応して、さらさらと音を立てて陶磁器のような白い肌に零れ落ちていく。綺麗な青灰色の瞳には思わず吸い込まれそうになってしまう。

「これで落ちない男はいないだろ?」
 ハサードの問いに、ロイは意味ありげにくすりと笑みを零した。
「……さあな」
 その口調は相変らずで、
「お前はすぐ落ちたな」
 向けられた視線に、ハサードはどきりとした。
 ハサードは2度、ロイを抱いたことがある。ロイの言葉どおり、そのいずれも『すぐ落ちた』ことを自覚している。
「で、フォードには半日掛かったな」
 そう声を掛けられ、フォードは持っていた酒杯を落としそうになった。
 フォードも1度だけ、肌を合わせたことがあった。その夜のことは今でも鮮明に覚えている。

 そして、次のフォードの台詞が、ロイの爆弾発言を導いた。

「じゃあ、最長記録は?」
 その質問に、ロイは一瞬青灰色の瞳を見開いた。
「そうだな。……その相手には、強烈に惹かれた」
 少し小首を傾げて考えてみせながら、その相手を想ってだろう、ロイが蕩けるような笑みを浮かべた。



「来い、ロイ」
 ジークの声に、ロイはハサードの手を解いた。離れ際、ロイがくすりと微かな笑みを零すのがハサードの色違いの瞳に映る。
「じゃあな、ジーク」
 ロイを引き寄せて、奥の階段からつかつかと2階へ上がっていくジークの背中を見送って、フォードはいつもの人懐こい笑顔を浮かべた。

「……何であんなに怒ってんの? ジーク」
 隣に座り、フォードの酒を奪って呑みながら、ハサードは首を傾げた。
「俺の酒、勝手に呑むんじゃねぇよ」
 フォードの手が酒杯を奪い返す。そのまま一気に酒杯を空にさせ、フォードは嬉しそうに笑った。
「呑み過ぎるなよ……、フォード」
「ああ? 残念だがロイみてぇに可愛く酔ったりしねぇよ」
「……あんたがザルなのは知ってるけど」
 ハサードも決して酒が弱いわけではない。しかし、目の前で酒杯を空にしていく男は呆れるほどに酒に強かった。ハサードが知る限り、呑み比べ出来るのはジークくらいのものだろう。
 そして、ロイは実は酒が強くない。普段は殆ど呑まないロイだが、以前一度だけほんのり頬を染めて、いつものロイでは有り得ない、やけに素直な台詞を吐くロイを拝んだことがあった。もっともそのロイを堪能する前に、とっととジークが不機嫌さも露に連れ去ってしまったけれど。
 今日のロイはそこまで酔っ払っているようには見えなかった。

  (じゃあ、何であんなに不機嫌になったんだ……?)

「最長記録保持者、誰だと思う?」
 ぼんやり考えている顔を覗き込まれ、ハサードはどきりとした。
「……判り切ってることを」
 そう答える。そう、判り切っていた。
 あのロイを相手に何処までも辛抱できる奴は他にいない。
 それよりも何よりも、
「ロイにあんな顔させんの、ジーク以外にいないだろ」
 先程の蕩けるような笑顔を思い出し、ハサードはぞくりと身体を震えさせた。
「なのに、何であんなに怒って……、ってもしかして、あいつ気付いていないのか?」
 色違いの瞳を見開くハサードを見て、フォードが楽しそうに笑う。
「ま、ジークらしいな」
 嬉しそうに瞳を細めながら、フォードは2人が姿を消した階段を見つめた。

「……他の男を見るんじゃねぇよ」
 栗色の髪を引いて、ハサードはフォードの顔を無理矢理自分の方へ向けさせた。
「……ロイに見惚れてたのは誰だったっけ?」
 人懐こい笑顔でフォードがそう指摘する。
「じゃあ、あんたでいっぱいにしてくれよ」
「馬鹿言え、10年早ぇよ」
 そう答えて、フォードはもう一度楽しそうに笑った。



「どうした? ジーク」
 寝台の端に腰を下ろし、片手を付いて吐息を漏らし、ロイはジークに視線を送った。
 自分のどの姿が相手の雄の部分を刺激するが、全て熟知した行動である。

(判っててやってやがる……)

 そう確信して、ジークは一つ舌打ちをした。そのまま、ゆっくりと寝台の方へと歩を進める。
「ロイ」
 ジークの腕が細い肩に触れると同時に、ロイの身体が寝台へと崩れ落ちていく。
「来いよ、ジーク」
 そう告げる生意気な口唇を、ジークは自らの口唇で塞いだ。

「……はぁ……っ、数秒だな、お前」
 激しい口付けの後、吐息を落として、ロイはくすりと笑みを浮かべた。
 この場合、何が“数秒”なのかは言うまでもなかった。
「……そういうお前は? ロイ」
 ジークの瞳の奥が、鈍い光を放つ。
「俺?」
 答えながら、ロイは全身がぞくりと粟立つのを感じた。

(煽りすぎたか……)

 少々酔いが回っていたという自覚もあった。久しぶりに懐かしい顔を見て、箍(たが)が緩んだというのもあった。
 だがそれ以上に、今の幸せを確認したかっただけなのかも知れない。

「……ジーク?」
 少し上ずった声で、ロイはジークを見上げた。構うことなくジークの指先がロイの上着を肌蹴、薄衣1枚を残したその上を滑り落ちていく。
「……あ……っ」
 もどかしいその感触に、ロイの口唇から切なげな声が零れた。
 内心では既に少々後悔していたが、今更、『最長記録はお前で、お前に惹かれたのだ』とは素直に口に出せなかった。
 その間にも緩やかな愛撫が施されていく。何度も肌を合わせ、身体を繋いできた仲である。何処が感じる場所が十分承知している上で、ジークは巧妙にその場所をかわしていった。

「……ジー、ク」
 青灰色の瞳を潤ませて、ロイは身を捩った。
「そんな眼をしても無駄だ、ロイ」
「あ……、」
「散々煽ってくれたからな」
「ジー、ク……、んっ」
「お前の口から言わせてやるぜ、欲しいってな」
 薄衣の上からでも、胸の先端が硬く尖っているのが見て取れた。軽く歯を立てると、ロイの痩身がびくんと跳ねる。
「あぅ……っ!」
 もともと敏感な身体は、酒が入ると感度を増す。それよりも何よりも、自分を抱く腕がジークのものだとそう認識するだけで、耐え難い快感に支配されてしまう。
 17歳で叔父に無理矢理身体を開かされてからというもの、数え切れない程の人間と交わってきた。自分を傷つけるための行為としか認識していなかった瞬間が、幸せを感じさせる瞬間だと理解したのは、ジークの腕の中だった。

「あ、……あ、」
 ジークの指がロイ自身を捉え、軽い刺激を与えていく。
「ジー、ク……っ、ジー、……ク!」
 ロイのしなやかな両腕が、縋りつくようにジークの背中に伸ばされた。
 最早、限界だった。
 身体中が、ジークを求めていた。後蕾がジークの侵入を待ちわびて、耐え難い疼きをロイにもたらす。先端からは先走りの露を溢れさせながらも、前の刺激だけで達することが出来ない身体は、知らず小さく痙攣を繰り返していた。

「あ、……はぁ……っ、あっ」
 絶え間なく零れ落ちる嬌声の合間に、何度か言葉を紡ごうとして、そうしてその度にロイは唇を噛み締めた。
「ったく、強情っぱりめ……」
 ロイの露を掬ったジークの指がそっと後蕾の入口に触れる。ただそれだけで、ロイの全身は歓喜に震えた。
「ジーク、も、……限界」
 その言葉を最後に、ロイはふっと意識を飛ばしそうになった。その痩身を支えて、ジークがしなやかな大腿の間に身体を割り込ませていく。
「結局はより惚れた方が負けか」
 小さな溜め息を落としてみるが、ジーク自身限界が近かったのも事実である。
「挿れるぞ」
 熱い憤りをロイの後蕾に突き立てる。
「っ、あ―――っ!」
 掠れた声を上げて、ロイはジークの腕の中で身体を限界まで弓なりに反らせた。秀眉を顰めて、短い吐息とともに絶頂を味わう。

「……はぁ……、は……っ、」
 あまりに早く達してしまったことを恥じ入るかのように、手の甲で顔を覆いながら、ロイは荒い息を整えようと試みた。
「大丈夫か? ロイ」
 心配げにそう尋ね、
「無理させちまったな」
 ロイに負担を掛けないように、ジークは未だ硬いままの自分自身を引き抜こうとした。
「……嫌だ」
 追い縋るようにロイが腕を伸ばしてくる。
「ロイ?」
 顔を背け、耳朶を朱に染めながら、ロイが小さく囁く。
「……もっと、お前が、欲しい……」
 消え入るようなその声は、それでもジークの耳にはしっかりと届いて、ジークが口元に笑みを浮かべる。
「了解」
 そう答えると、ロイの耳朶は一層朱に染まった。



 もう何度達したか判らなかった。何度か意識を攫われそうになりながら、それでもロイは縋り付くようにジークを求めた。
 ジークの声、ジークの指、ジークの吐息――。ジークの一つ一つを実感する度に、耐え難い幸福感に満たされるのを感じる。
 かろうじて瞳を開くと、すぐ目の前にジークの顔があった。

「ロイ、無事か?」
 口元に笑みを浮かべて、ジークがそう問い掛ける。
「……無事じゃない」
 起き上がれそうにない、そう付け足して、ロイはとんでもなく綺麗な笑顔を浮かべた。
「そうか。……だが、一つだけ訊いておきたいんだが」
 ロイの笑顔に、これまたとんでもなく幸せそうな笑顔を返しながら、それでもジークは問い掛けた。眠りに就かれる前にどうしても確認しておきたいらしい。

「……お前以外に誰がいる」
 頬をほんのり染めながらそう答えて、ロイは瞳を伏せた。
 今度こそ身体を襲う倦怠感に勝てそうにはなかった。

「……アルフじゃないのか」
 眠りに捕まりそうになる直前、そう呟くジークの声が耳に届く。
 聞き流せないその台詞に、ロイはもう一度面倒くさそうに瞳を開いた。
「アルフには誘いを掛けたことはないからな」
「……なるほど」
 納得げに頷いて、ジークがはたと顔を上げる。
「じゃ、俺にはいつ誘いを掛けたんだ?」
 その問いにロイは長い息を吐いた。

 初めて会ったその瞬間から、強烈に惹かれた――。

 そう言葉にしようとして、ロイはくすりと笑みを浮かべた。

「もう寝る」
 代わりに短くそう告げて、ロイは今度こそ倦怠感に身を委ねた。

 寝息を立てる愛しい存在にジークは一つ口付けを落とした。
 その2人の姿を、窓から差す月明かりが優しく照らしていた。
                     ……Fin.




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