Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 届かない想い 


 森の木々を渡る風の音だけが、やけに大きく聞こえる、そんな夜だった――。


 初めて出会ったあの日から、
 青灰色の視線とぶつかったあの瞬間から、
 「運命」をともにしたいと、そう思ってきた。

 ロイが背負うものの大きさなんて関係なかった。
 それが、英雄ディーンの血であろうが、精霊石の所有者であろうが、
 ――あるいは、邪神の贄であろうが。



 ――この「想い」が届くことはないのだろうか……。



 夜営のための焚き木が、ぱちぱちと音を立て、月を見上げているロイの端正な横顔を照らし出す。

 ふと先程の考えを思い起こし、ジークは心の中で苦笑した。
 今まで、この男に、「想い」が届くことなんて期待してはいなかったはず。
 自分は思った以上に、強欲な生き物であるらしい。
 ともにセレンを出発した、あの雨の朝から。
 初めて肌を合わせた、あの雷鳴の夜から。

 この男と、ともに生きていきたい。
 そんな「想い」だけが強くなっていく。

 それなのに――。


『……本当は、帰ってくるつもりなど、なかった』
 肌に残る情事の跡を、微かに震える指で隠しながら、あの夜、ロイはそう告げた。


「……ロイ、お前、何を考えてやがる」
「……別に」
 いつものように、涼しげな声がそう答え、感情を読ませない青灰色の双眸が、ジークを見上げる。
 そのとき、ジークの中で何かがちりりと音を立てた。

 小さく舌打ちを一つ。
 そうして、強引にロイの腕をひき、そのまま痩身を大木の下に押し倒す。
 一瞬だけ大きく見開かれた青灰色の瞳と非難の声を無視して、ジークは乱暴にロイの上着を引き剥いだ。

 炎に揺らめく、ロイの白い肌。
 そして、そこに点在する、鮮やかな情事の跡。

 それを、漆黒の双眸にしっかりと焼き付けて、
 そうして、その事実ごと、ロイが抱える不安をともに受け止めてやる、
 そう告げようとした、その時だった。

「……どうした、ジーク。今までと、同じさ。お前は、何度も見てきたじゃないか……」
 ロイが綺麗に微笑む。
 その笑みに、自分の「想い」が拒絶される。



 ――どうすれば、この「想い」が届くのだろうか。



 ロイの想いは理解できた。
 ロイは、自分が傷つくことよりも、人が傷つくことを恐れるところがあるから。
 避けられそうにない「運命」の存在に、ロイの聡明な頭脳が答えを出したのだろう。
 その昔、アルフを祖国に置いてきたときのように。



 ――結局、この「想い」が、ロイに届くことはないのだろうか。



「……離せ、ジーク」
 静かなロイの声が、何処か遠くから聞こえるような気がする。
 ジークの身体を押し退けようと伸ばされたロイの細い腕を乱暴に掴み上げ、ジークは白い肌に唇を寄せた。
 白い肌に乱暴に歯を立てると、ロイの身体がびくりと跳ねる。
 歯を立てた箇所から、一筋の紅い血が流れていく。
 今まで何度か肌を合わせてきて、一度も乱暴に扱ったことがないその白い肌から。
「……ジー……クっ」
 最後にもう一度だけ掠れた声でジークの名を口にし、そうしてロイは力ない抵抗を止めた。
 だた、形の良い唇を色を失くすほどきつく噛み締めて。
 その様子は、「想い」を決してもらさまいとするロイの決意のように見えて。
 そうして、ジークの「想い」に対する強い拒絶のように思えて。

 もう一度、小さく舌打ちした後、ジークは抵抗を止めたロイの痩身を乱暴にひっくり返し、うつ伏せにした。
 これ以上、見たくはなかった。
 堅く閉ざした唇も。「想い」を拒絶し続けるように見開かれた青灰色の瞳も。

 そのまま乱暴に下帯を外し、下着を引き降ろしても、ロイは決して声を上げなかった。
 細い腰を乱暴に掴むと、ほんの一瞬だけ、白い背中が強張るのが見て取れた。
「……力を抜け、ロイ」
 一言そう告げて、ロイの白い背中を漆黒の双眸に映す。
 そのまま強引に細い腰を引き寄せて、己自身を捩じ込むと、噛み締めたロイの口から、声にならない小さな呻き声が上がった。
 白い背中をうつ伏せにして抑え込んだまま、己自身を無理矢理最奥まで侵入させて息を吐く。

 白い肌に掛かる蒼い黒髪が、ロイが首を振る度、大きく揺れるのが見えた。
 その向こうで、上着に絡め取られたままの細い腕が、小刻みに震えているのにも気付いた。
 そして、噛み締めた小さな呻き声と、苦しげな吐息。

 今、ロイはどんな表情をしているのだろうか。

 言いようのない想いが込み上げてくる。

 愚かな行為だと、そう思う。
 大切にし続けてきたはずのものが、音を立てて崩れていく。

 それでも。

「……ロイ、俺は、お前とともに生きたい」
 ジークの低い声が告げる。

「ロイ、お前は?」
 問いかける声に、答えはない。

「……答えろよ、ロイ」
「……」
「答えろよっ」
 何度目かのジークの怒声に、ロイはただ小さく首を振った。
 それが何を意味するのか。
 ただ、白い背中が、遠ざかっていくそんな錯覚がして。
 少しでも、「想い」を繋いでいたくて。
 どうしてもロイの「声」が聞きたくて。

「……んっ……っ」
 抑えつけた痩身を背後から抱え上げて、激しく突き上げる。
 目の前で、蒼い黒髪が舞うのを瞳に映しながら、深く深く何度も何度も身体を繋げた。
 抱き締めてなお、深く己を刻み込んでなお、腕の中のロイが消えてしまいそうな錯覚に抗うように。

 ロイ……。
 愛してる、そばにいさせてくれ。

 声にはせず、唇だけで告げたジークの「想い」を、かき消すように風が舞う。

 ただ、風の音だけが、やけに大きく、ジークの耳に届いていた。
                     ……Fin.




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