Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 探し人 


「……人を探しているんだが、」

 こうして、新しい街に入ったのは、何度目のことだろう。

 たくさんの人で賑わう、週末の酒場。
 カウンターで一杯のエールを注文した後、ジークは店の主人に問い掛けた。

「探し人かい? 兄さん」
 不意に、隣に腰掛けていた男が声を掛けてくる。親父の説明によると、男はいわゆる『情報屋』であるらしく、口元に笑みを浮かべて見せながら軽く会釈をしてきた。その視線は、おそらく値打ちのあるものを探しているのだろう、ぎらついた光を帯びてジークの身なりをしっかりと検分している。そうして、ジークが腰に提げた剣に気付いて、男は満足げに笑みを浮かべた。

「この街の情報なら何でも聞いてくれ。って、答えは金次第だがね」
 正直にそう告げる男の様子に、ジークも口元にだけ笑みを浮かべた。
 もっとも、視線だけは男から決して逸らされることはなかったが。


「銀髪の神官、ねぇ……」
 ジークの説明を聞き、しばし考え込んでいた男が、不意に何かを思い出したかのように右拳で左掌を叩き、大きく頷く。
「……何か知っているのか?」
「ああ。……ついて来な」
 意味あり気にそう答え、男は親指を立てて店の扉を指差した。つまり、外で――おそらくは人気のない場所で商談しようって寸法らしい。
 一瞬止めに入ろうとした店の主人に1つ笑みを返して、ジークは店を後にした。

「あんた、何者なんだ……?」
 大剣を一振りして鞘に納めながら、ジークはゆっくりと声の主を振り返った。
 ジークのその足元には、盗賊風の男たちが数人転がっている。
 先刻、『情報屋』と名乗るこの男に促されて入った裏通りには、案の定盗賊風の男たちが待機していた。もっとも誰1人としてジークの剣の敵ではなかったのだが。
 少し離れた位置で、一部始終を目の当たりにさせられた男は、ジークを獲物に選んでしまった自分の愚かさを深く後悔していた。幸いジークと自分の間にはまだ十分な距離がある。息を呑み、ジークが近付く前に男は一気に駆け出した。

 しかし、駆け出そうとしたそのの足は、そのまま凍りついたかのように動きを止めた。

 それもその筈。
 男の喉元には、寸分違わず、細身の剣(レイピア)が突き付けられていた。
 何の気配もなく近付いていたその人物は、黒い外套を目深に被り、感情のない冷たい青灰色の双眸で、それでいて恐ろしく整った顔で、男を見下ろしていた。
 ぞくりと背中に冷たいものを感じて、男がその場に座り込む。

「ロイ。……いたのか」
 駆け寄るジークをちらりと一瞥して、ロイは男に視線を戻した。
 そして、
「お前、命は惜しいだろう?」
 静かな綺麗な声が、一言だけそう告げた。

 それから男が口を割るのにそう時間は掛からなかった。


「……エトゥス、か」
 男が告げた街の名をジークが繰り返す。
 その街の名は聞いたことがあった。確か此処から遥か北にある小さな美しい街。
 男の情報によると、その街に、銀髪の神官がいるらしい。
 ただ、気掛かりが1つだけあった。
 一緒に旅をするようになって2年。
 ロイが旅をしている目的は未だ判らなかったが、この2年の間、一度たりとも行き先に関心を寄せなかったロイがほんの一瞬だけ見せた動揺――。

「……ロイ、」
 宿に帰るなり、旅支度を整え始めたロイの背に問い掛けてみる。

「……行き先を変えるというのなら、ここで別れる」
 ジークの意図に気付いたのか、静かな声がきっぱりとそう告げた。

 しばらくして、
「探し人を見つけて、どうするつもりだ?」
 ふと手を止めたロイがゆっくりと振り返る。

 ロイがそんな質問を投げ掛けるのは、初めてのことだった。
 これまで、周囲に一欠片の関心すら寄せたことがなかったのに。
 その小さな変化が、嬉しく思える自分は、随分と深みに嵌っているらしい。

「ん……。決着をつけなきゃいけねぇことがあってな」
 その返事に納得がいったのかどうか、青灰色の瞳を伏せてロイは小さく頷いた。
 そしてほんの少しだけ首を傾げて、風の囁きに耳を傾けた。

「明日は早いぜ?」
 ジークが告げる。
 ロイの姿を深い漆黒の双眸に映しながら。

 ロイがゆっくりと青灰色の瞳を開く。
 そして、ジークの視線を受け止めて、もう一度小さく頷いた。
                     ……Fin.




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