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ほんの少し冷たくなった風に頬を撫でられ、ロイはゆっくりと瞳を開いた。綺麗だと誰もが賞賛する青灰色の瞳が、窓から射し込む夕陽の色に染まる。だが、同じように夕陽に染まっていても、右の瞳は光を映すことはなかった。
それでも、後悔はない。
何より大切な人たちがいるこの世界を守れたのだから。
ゆっくりと視線を戻し、ロイは満足に動かない右手を見つめた。そうして、その手をしっかりと握り締める一回り大きな手を瞳に納めて、ロイはやわらかく微笑んだ。
「……ジーク」
小さな声で、そっと名を呼ぶ。
寝台の傍に腰を下ろし、ロイの手を握ったまま、ジークは静かな寝息を立てていた。すぐ傍にある褐色の短髪に微かに口付けて、ロイは瞳を伏せた。
――また、倒れたのか……。
昼下がりにこの街に着いたところまでは覚えていた。照りつく太陽に視界がぐらりと歪んだような気がした。あの後、気を失ったのだろう。
4つの精霊石を身に納める者として、受け入れなくてはならない運命である。かつて英雄ディーンが早逝したように、長く生きることは叶わない。
1日を追うごとに衰弱していく身体を自覚していた。
ここ数ヶ月、倒れ伏せる日も多くなっていた。
その度ごとに、まるで自分自身の生命を分け与えようとでもするかのように、大きなこの手がしっかりと握り締めてくれた。
剣を握る者独特の、硬い掌と指から、確かな何かが伝わってくる。
不思議なものだ。
以前はあんなに死にたかったのに……。アルフを守る切り札として、生き続けなければならないことに苦痛を感じていたのに……。
何故だろう。今は、一日でも長く、生きていたい。
そう思うと、自分の命を吸い取っていく見えない何かが、とてつもなく恐ろしく感じることがあった。
それでも、
「ジーク……」
もう一度、確かめるかのようにそう名前を呼んだ。
それだけで、湧き上がる恐怖が消えていくのを感じた。
「……ん? ロイ?」
漆黒の瞳がゆっくりと開かれていく。
とくん、と確かに脈打つ鼓動を感じた。
……Fin.