Written by Tetsu
湖深く湧き出す泉一つあり滾々として水は濁れり
香りなき花立ち煙る山の端はようよう見ゆる月の懸かりに
茜さす浅き春日に狂乱す我がこころねに花のちるらむ
移ろいのこころを映す花鏡逢うて醜し花情け無し
秘すれば花と云い置きし古人とて花の行方は語り尽くせず
春往なむ櫻一片翻り花問う蝶となりて還りぬ
群青を映し取りたる大島を纏ひて君の遠く立つ影
闇の夜の行く先知らず白波の煙りて見ゆる沖吹く風に
土砂降りの雨の中にも時折は天より我を貫くものあり
二つ三つ迷いの雲は山の端に茜を宿しいよよ悲しも
様々に秋を染め分け小春日に哀しき夢を踏む音を聞く
青磁器の欠けたる様を見つめては失せにし側を想いて已まず
この胸の重きところに沈みたる今宵の月は何処にいづるや
中空に影や光のありやなし白々細き新月の色
石蕗の花揺れずとも小普陀を吹き越えてゆく秋の風知る
夢といふ一つ言葉で人の世を抜けて澄みゆく中天の月
君が身の水面に映すしづけさを空に居ませる月こそ知らめ
鳴る風の疾さと夢の後先を逝く人ごとに問うて哀しも
月満ちて人を呼べどもこの身こそ唯一の枷と思えば哀し
重ねても重ねてもなお哀しみは我が丈越えて天に届かず
久方の天の闇から雪の華この掌の上で消なば消えなむ
御魂降るこの人の世は粉雪の闇の間に間に積もりゆくごと
阿修羅像六肢の想い引き結ぶこころひとつに雲は流るる
差し出せる汝が掌の日輪に我なる影もかき消ゆるごと
天に結ぶ露ありと聞く水無月の空高くして銀河は疾し
露に棲む人のこころぞ玉ならむいのりの数珠に貫きて留めむ
貴きは稲穂の如く世の人の糧としてこそ生まれ落ち来る
織姫の機に綾なす絹の糸繭の夢みし世を翔くるごと
二方に散りゆく花の別れかな風の形象をなぞる子供ら
満月に花の行方を尋ねれば風逝く果てを照り返すやも
月草の移ろう日々の想い出は光となれぬものの哀しみ