IZUMINO-izm 16年06月号より
ウンコに学ぶ2冊

スカトロジー(糞尿譚)が好きだと、先月の本欄で書いた。今回は、便にまつわる2冊の本を紹介しよう。

まずは「くう・ねる・のぐそ」※1。糞土師(ふんどし)を名乗る著者、伊沢氏の自伝であり、かつ40年に及ぶ野糞の実践記録である。著者はある日、屎尿処理場建設反対運動への反発から「信念の野糞」を始めた。「自分で出したウンコに責任を持たず、どこか遠いところで始末してくれとは、単なる住民エゴではないか」というわけだ。以来、40年以上、累計12,000回を超える野糞を実践している。さらに近年は「野糞跡掘り返し調査」を敢行し、便が土に還る過程を生々しく記録。ヒトの便が土壌生物にとっていかに「ご馳走」であるかを実証している。そして、著者はこう断言する。「命を返す野糞こそ、人間がなしうる最も崇高な行為」である、と(^_^;)。

2冊目は「ウンコに学べ!」※2。屎尿処理や排便文化に関する古今東西のウン蓄満載の良書である。私が本書を初めて読んだのは15年近く前だが、久しぶりに開いてみて、マーカーを引いた箇所の多さに改めて驚いた。それだけお気に入りの文章が多いということだ。で、もちろん、古今東西の野糞文化についても、しっかり書いている。本書は、下水処理技術の解説にかなりの紙幅を割いていて、決して野糞を推奨しているわけではないのだが、伊沢氏同様、次のように書いている。

「環境問題に向き合うとは、まずは自分がしたウンコに向き合うということでなくてはならない。」

そう。人は誰しも排便を行う。「ウンコに学べ!」の著者らも書くように、「いのちの平等を教えるためには、誰もがウンコをすることの確認から始めなければならない」。

思うに、便とは、文字通り「便り」である。先月の本欄で示したように、それは、私の体内(消化管の中は正確には「体外」だが)から私に届く「便り」であると共に、私が自然に対して送り出す「便り」でもある。せっかくの「便り」なんだから、目を背けたり、まるで「したことなどないかのように」タブー視したりせず、時には正面から見据えてみるべきだ。

※1:くう・ねる・のぐそ:伊沢正名、ヤマケイ文庫、2014年
※2:ウンコに学べ!:有田正光/石村多門、ちくま新書、2001年

【参考】読書日誌:くう・ねる・のぐそ


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