奇跡の書店話は10ヶ月前にさかのぼる。今年1月、私は所属学会の生涯教育研修で徳島大学へ行った。マイカー利用の予定だったが、その日はあいにく大雪で高速道が使えず、鉄道に切り替えた。研修が終わり、帰りの電車が来るまでの時間調整がてら、JR蔵本駅前にある瀬川書店という本屋に立ち寄った。
店に入り、奥へ行くと、突き当たりの書棚の一角が数多くの何やら茶色く変色した書籍で占められている。よくよく見ると、それはすべて岩波新書で、200冊はあろうかと思われる。書名の多くは見覚えのある、懐かしい名前。おそらく35〜40年前頃に店頭に並んでいたと思われるラインアップだ。思わず、店番のおばちゃんに「これ、古本ですか?」と訊いた。おばちゃんいわく、「ウチは古書店やおまへん」。そりゃそうだ。新書店は古書を取り扱わないのが、たしか決まりのはず。で、理由を尋ねてみると、売れ残って、いちど倉庫にしまい込んだものを、もう一度棚に置いたのだと言う。
なるほど。で、値段はというと、かつての値段、\280とか\320などの値がそのままついている。再販制と岩波流責任販売性のなせる業である。だが、私のような岩波新書好きにとっては、この書店の一角は夢のような空間だ。とりあえず、田尻宗昭著の2冊、「四日市・死の海と闘う」「公害摘発最前線」※を買い求めたのであった。
(次号へ続く)
※田尻宗昭:四日市・死の海と闘う、岩波新書、1972年
田尻宗昭:公害摘発最前線、岩波新書、1980年