永山則夫の息子たち(ないしジョーカーの弟たち)資本主義なるものに対する根元的な吟味や、資本主義の現段階についての深い分析なくして、「新しい資本主義」もなにもないだろうと、先月の本欄で書いた。その点でいうと、現代資本主義社会を様々な定量データを駆使して分析し、新たな階級社会の出現について論じている橋本健二(社会学)の仕事は注目に値する1)。
その橋本氏が14年前に出版された著書で、永山則夫の論を引きながら不気味な予言をしている。ただし、永山則夫といってもご存じない方が多いだろう。
永山則夫(1949-1997)。極貧の少年時代を過ごし、1968年、世間全体に対する恨みから拳銃による連続射殺事件を起こす。翌1969年に逮捕され、1997年死刑。獄中で膨大な数の文学書、思想書を読破し、数多くの著作を世に出した。その中の一文(1971年)で、彼はあらまし次のように主張している。「安定雇用のプロレタリアートはもはや革命的な階級ではない。いまや貴族的プロレタリアートと化し、より下層で不安定就労層たるルンペンプロレタリアートと対立している。革命的な階級はルンペンプロレタリアートだけであり、彼らは個人的テロルによってブルジョアジーに対抗するテロリスト集団になる。」
で、橋本氏の14年前の予言というのが、こうだ。
(永山の)この呼びかけは、時期尚早だった。なぜなら当時、ルンペンプロレタリアート=アンダークラスは、三大階級のひとつといえるような規模にはなっていなかったからである。しかしいまや、アンダークラスは巨大な最下層階級に成長している。こうして永山の呼びかけに応える若者たちが、30数年を経て登場しつつあるのかもしれないのである2)。街なかや公共交通機関で時折発生する無差別殺傷事件の報道を見るにつけ、この予言が想起される。10月に起きた京王線の事件では、犯人は映画の主人公ジョーカーに心酔していたという。永山則夫の息子たちというよりは、ジョーカーの弟たちという方が、今の人たちにはピンとくるかもしれない。さて、このような状況の原因分析と解決策について数行で論じるなどというのは暴挙に等しいが、所得不平等の拡大、社会的流動性の失速と回復というのが論点のひとつになるのは間違いないだろう。「新しい資本主義」は、如何なる回答を用意してくれるだろうか?
- 氏の最近の著作としては「東京23区×格差と階級」(2021年、中公新書ラクレ)がある
- 橋本健二:新しい階級社会 新しい階級闘争、2007年、光文社