IZUMINO-izm 23年10月号より
ワシントンの銃弾(Washington Bullets)

前月よりの続き)

今から50年前の1973年9月11日、チリで起きたクーデターについては、ブリティッシュ・パンクの雄ザ・クラッシュも「ワシントンの銃弾」という歌にしている。歌詞(一部)を下に示す。

選挙で勝利し、社会主義をめざすと宣言した前アジェンデ大統領が相当の民衆的支持を得ていたこともあってか、クーデターに伴って起きたアジェンデ派と目された人々に対する弾圧は、苛酷かつ広範であった。そして、とてつもなく残虐な手口が使われた。

ある収容所では性的虐待による拷問を行っていた。収容者の家族全員を拘束し、収容者の前で性的虐待を加える。ネズミや訓練した犬も使われたという註1)。先月、ビオレータ・パラを「新しい歌」運動の先駆者と紹介したが、その「新しい歌」運動の代表的シンガーがヴィクトル・ハラ(1932-1973)である。「耕す者への祈り」などが有名だが、私の一押しは「平和に生きる権利」。ギター演奏はフォルクローレに英米系のロックテイストが少し加わった感じで、面白い。どちらもYouTubeで聴けるが、彼も弾圧の犠牲者だった。

サンティアゴの2ヶ所の競技場には何千人もが連行され、尋問され、拷問を受け、殺害された。ハラはその1人で、彼の遺体が発見されたとき、遺体には44発の弾痕があり、両手の指はすべて切り落とされ、顔は激しく変形していた註2)。指が狙われたのは、彼がギタリストであったことと関係しているのか…?

そして、「ワシントンの銃弾」とは、このクーデターの黒幕がアメリカであることを指している。クーデターへの関与を米政権は認めるのだが、それはかなり後になってからのことだった。1980年発表のこの歌詞の中で「Es Verdad(それは真実だ)」とわざわざスペイン語の一節を挟み込んでいるのは、そうした背景があってのことだろう。

さて、こんにち。わが国の政府関係者が近年頻繁に使う「同じ価値観を共有する国と連携し…」というフレーズ。かの国の数々の「前科」を考えると、私は素直に受け取ることができないのである。

As every cell in Chile will tell,
the cry of the tortured men.
Remenber Allende,and the days before,
before the army came.
Please remember Victor Jara,
in the Santiago stadium,
Es verdad ― those Washington bullets again.
  チリのすべての監獄が教えてくれる
拷問される男たちの悲鳴
アジェンデを思い出せ、かつての日々を
軍隊がやってくる前のことを
ヴィクトル・ハラのことを思い出してくれ
お願いだ、サンティアゴ・スタジアムのことも
(それは真実だ)また、ワシントンの銃弾だ

*歌詞・訳詞は、アルバム「サンディニスタ!」のライナーノーツより引用(一部修正)


註1,2)ジャレド・ダイアモンド:危機と人類、日経ビジネス人文庫、2020年

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