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月明かりが、街を明るく照らしていた。
今宵は満月。そのためか、通りにはいつもより人通りが多いような気がする。
しかしそれも一時のことで、既に深夜と呼べるこの時間となっては、治安があまりよくないこの街の通りにはほとんど人気は見られなくなっていた。
そんな深夜の街を、シルクは一人静かに歩いていた。
肩の辺りでほんの少し巻いた灰色がかった金髪(アッシュブロンド)が揺れる。月の光に照らされたその柔らかい髪の下で、透き通った肌理の細かい白い肌が見え隠れていた。白い肌に淡い翡翠色の瞳が見事な調和を見せる。美しいその瞳で何かを探すかのように左右を見渡し、そうしてシルクは形の良い唇から吐息を落とした。
不意に暗闇から口笛が響く。
全く気配を感じなかったその方向に視線を巡らせ、シルクは翡翠色の双眸を少し細めてその場所を見据えた。そのシルクの瞳に、建物の陰からにやにやと笑いながら現れた男の姿が映る。
「……何か、用か?」
振り返ったシルクの類まれなその美貌に男はまた口笛を鳴らした。
「何か用か、と聞いているのだが」
不機嫌さを露にしてシルクがそう尋ねる。美しい容姿に相応しい鈴のようなその声に、男は満足げに喉の奥で笑った。
次の瞬間、男がその場に倒れ込む。その様子に一瞬だけ躊躇した後、シルクは駆け寄り、男の傍に膝をついた。
自らの腹部を抑える男の腕が赤く染まっている。どうやら腹部に傷を負っているらしい。出血の量からして軽症ではないことはシルクにも見て取れた。
「……大丈夫か?」
シルクがそっと手を差し伸べた、その瞬間だった。
腹部の出血が偽物であることに気付いたのとほぼ同時に、手首を掴まれそのままシルクは建物の陰へと押し倒された。
「何を……ッ、ぅくっ、んんッ!」
抗議の声は最後まで上げられることはなく、男の厚い唇によって阻まれる。そのまま男は難なくシルクの両手首を捩じ上げると、押し倒したシルクの頭上で抑え付けた。身を捩ろうとするシルクの口腔内を男の下が貪る。圧倒的な体格差にものを言わされ、男の下から逃げ出すことも叶わないまま、シルクは絡みつくような舌の愛撫を受け入れた。
狭い路地裏に、唾液の音が響く。
「……ふ、……あッ、あ、」
やっと開放されたシルクの唇から、上ずった声が上がった。
いつの間にか上着の間から滑り込んできた無骨な指が、シルクの胸の突起を弄んでいる。もともと敏感なシルクの身体は、特に胸の刺激に弱い。巧みすぎる指の動きに、瞬く間に意識が翻弄されていくのをシルクは感じた。抵抗しようとしていた腕から力が奪われていく。
「ここが、いいんだろ?」
シルクの変化を楽しみながら、男がそう告げる。そして今度は胸の突起を口に含むと、舌で転がすように丹念に舐め上げ始めた。同時に下腹部へと降りてきた男の指が、シルク自身を包み込む。その瞬間、シルクの喉が鳴った。
「あ、あ……ッ、……だめ、だ……ッ、ん……ッ、ん、あッ!」
月明かりに敏感な身体が跳ねる。奥まったその路地に抑えきれない声を響かせながら、シルクは男の衣服を掴んだ。
「もう……ッ、イク、」
小さくそう零し、シルクが身体を震わせる。その直後、シルクは男の手に白濁した液体を放った。
「……はぁッ、あ、……はぁ……あッ」
乱れた吐息が、シルクの前髪を揺らした。アッシュブロンドの髪がしっとりと濡れたシルクの額に落ちていく。その姿を瞳に納め、男はごくりと大きくなる欲望を嚥下した。
「――ッ」
男の手が一秒を争うかのように乱暴にシルクの下帯を外す。そしてそのまま一気に引き摺り下ろすと、男は露になった白い太腿を抱え上げた。荒い吐息を吐き、既に十分な硬さを持つ自分自身をシルクの後蕾に宛がう。
その瞬間、ぞくりとした殺気を覚え、男は反射的に顔を上げた。
視線の先に映ったのは、射るような翡翠色の双眸。そして、自由になった片手に霧が集まっていくのが見えた。
「…………いい加減にしろ、ジル」
少し怒りを含んだ鈴の声が男の名前を呼んだ。
「気づいていたのか……」
「当たり前だ」
そう即答し、シルクは男の髪を引いた。
「変化を解け、ジル。その姿では嫌だ」
耳元でそう囁く。
次の瞬間、シルクの視界に流れる黒髪と真紅の瞳が飛び込んできた。
「ジル」
目の前に姿を現した恋人の姿を瞳に映し、シルクが瞳を細める。そして、ジルバスクの長い黒髪に指を絡ませ直すと、肩越しに輝く月を見上げてふわりと微笑んだ。
「……お前という存在が、私の生に意味を与えてくれた」
上がる吐息の中、シルクが囁く。
全身で、ジルバスクの存在を感じながら。
「我とともに生きることで、お前は光を失うかも知れぬ」
シルクを蹂躙するジルバスクが、真実の姿へと変化していく。
それは闇色を纏った、魔界の王としての姿。
「んんッ!」
魔王ジルバスクに最奥を突き上げられ、シルクは喉を鳴らした。身体の奥にジルバスクの存在を感じ取り、熱い体内で絡み付くようにジルバスクを締め付けていく。貪欲なその身体に誘われ、ジルバスクも腰を揺らめかせた。互いの動きが次第に激しさを増していく。
「……ジ、ル、……あッ、あッ、……ジル、ジル、」
翡翠色の瞳にジルバスクの真実の姿を映し続け、シルクは何度もその名を呼んだ。
駆け上ってくる感覚に身を任せる。そして、その存在を確かめるかのようにシルクはジルバスクの身体を抱き締めた。
「……ジル」
天を仰ぎ、シルクはジルバスクの名前を呼んだ。淡い翡翠色の瞳に瞬く星々が映し出される。
「お前が光を求める限り、」
瞳を伏せ、鈴の声で言葉を紡いでいく。
「私は、光を失ったりはしない」
そう告げて、シルクはゆっくりと瞳を開いた。翡翠色の瞳が強い輝きを持って、ジルバスクの姿を映し出す。
「私を誰だと思っている?」
ふわりと笑顔を浮かべ、シルクはジルバスクに口付けを落とした。そうしてそのままジルバスクに身体を預けるようにして、睡魔に誘われていった。浅い寝息を立て始めたシルクの痩身を包み込むように抱き上げ、ジルバスクは天を仰いだ。
月明かりの下。
それでも、朝陽の光の中にあるような錯覚すら感じさせる。
光を纏う愛しい存在――。
闇に染めてみたいという欲望と、
光を失わないでほしいという切望を、
胸に飼い、ジルバスクは静かに月を見上げた。
Fin.