Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 たった一つの存在 


「……んっ、」
 小さく身動ぎして、開かれる翡翠の瞳。
 その瞳を上げると、シルクは木々の隙間から零れ落ちる朝陽の光を見つめた。朝陽を受けてきらきらと輝くアッシュブロンドを優しく撫でる指に気付き、翡翠色の視線を送る。
 鋭い爪を持つその指が、動きを止めた。

「……起きたか」
 真紅の双眸を少し細めて、その指の主ジルバスクが静かに問う。その視線を受け止めてシルクは類稀なその美貌にふわりと微笑を浮かべた。
「おはよう」
 凛と響く声でそう挨拶し、華麗な動作で上体を起こす。そうしてシルクの隣で大樹の根元に背を預け腰を下ろしているジルバスクの胸に顔を埋めた。
 ジルバスクを見上げるシルクの顔に、木漏れ陽が降り注いでくる。

 淡い翡翠色のその瞳は、いつも光を宿している。
 光に輝く白い肌に、柔らかいアッシュブロンドの髪。

「……お前は、朝陽が良く似合う」
 独り言のように呟き、ジルバスクは見上げるシルクの唇を奪った。
「…んんッ」
 アッシュブロンドに指を絡め、激しく何度も口付ける。奪い尽くすようなその行為の間に上がるシルクの吐息が次第に熱を帯びていく。
「……はぁッ、あ……、何だ、闇に、……堕としてみたく、なったか?」
 上がる吐息の中、尚も何処か凛としたその声でシルクがそう問い掛ける。それには答えず、ジルバスクは長い指で肌蹴た白い胸元を辿っていった。突起を指で摘み、シルクの欲情を煽っていく。
「あッ、……ん、あッ、あ……ッ、」
 何度も抱いて来た身体である。どこをどうすればシルクを陥落できるか、ジルバスクには容易に想像がついた。案の定、弄んだその突起をねっとりと舐め上げると、シルクは上ずった声を上げた。
 白い肌が欲情に色づいていく。
「あッ、……ジル、……あ、あ……ッ、もう……ッ、」
「……堕として、みる、か」
 抑揚のない声で静かにそう告げると、ジルバスクは真紅の瞳を細めた。紅い口元が静かに呪文を詠唱し始める。
 低く這うようなその音が闇の呪文であることはシルクにも何となく判った。だが抵抗するわけでもなく、シルクは翡翠色の瞳でじっとジルバスクを見つめた。少しして不思議な響きの音が完成する。その直後、シルクの痩身がふわりと宙に浮かんだ。同時にシルクは手足の全ての自由が奪われたことを理解した。
「……えっ?」
 少し非難の色を帯びた翡翠の瞳がジルバスクを見下ろす。表情1つ変えずその視線を受け止めると、ジルバスクは指先を僅かに動かして、シルクの衣服を肌蹴させた。
「堕としてやる」
 そう告げて、肌蹴た白い肌に唇を寄せる。そして、舌を這わせ、時には噛み跡を残しながら、ジルバスクはシルクの反応を楽しんだ。

「あッ、……いや、だ……ッ、こんなのは……ッ、ジルッ、よせ……ッ、」
 煽られ、焦らされ、シルクの喉から声が零れる。
「……あ、あ……ッ、ジル、……もう、やめ……ッ、」
 非難の声が嘆願の色を帯び、翡翠の瞳から透明な雫が溢れた。
 そして、
「あ、あ……ッ、やぁ……ッ!」
 無理矢理引き摺り出された欲情に、シルクはびくびく、と身体を震わせた。
 悲鳴に近い声だった。
 過ぎる快楽は、シルクの身体に激しい苦痛を与えた。
「はぁ……ッ、はぁッ、あ、……どう、して、」
 先ほど果てたはずだった。それなのに、シルクは身体の奥に残る熱を感じた。
「や、だ……ッ、ジル、」
 再び快楽の波がシルクを襲い始める。
 動かすことの出来ない、支えるものすらない身体が、ただ小刻みに震えた。
「堕ちろ」
 短くそう命令し、ジルバスクはシルクの腰を引き寄せた。
「っあぅッ!」
 両脚を割られ、一気に奥まで突き上げられて、シルクは悲鳴を上げた。息を吐く間もなく、立ったままのジルバスクに激しく身体を揺すぶられていく。
「あ……ッ、う、ぅくッ、……あッ、あ、ああッ!」
 一方的なはずのその行為に、それでもシルクの身体は快楽を掬い上げた。
「あ、あ……ッ、んッ、あ、あ……ッ、」
 混濁していく意識の中、最早言葉を紡ぐことできなかった。薄く開いたシルクの唇からは喘ぎ声だけが零れ落ちていく。

 ぽつん……。

 不意に肌に触れた何かに、シルクは視線を上げた。

 翡翠色のその瞳に、天から舞い降りてくる水の精霊たちの姿が映る。
 雨の雫とともに、シルクの意識が晴れていく。


「…………ジル、」
 1つ息を吸い込んで、シルクはジルバスクの名を呼んだ。
「……愛している」
 そう告げるシルクを再び射した陽の光が包み込んだ。
 木漏れ陽を纏い、シルクが微笑む。
 その姿を見つめ、1つ息を落として、ジルバスクは呪縛を解いた。

「……お前が本当に望まない限り、簡単には堕ちやしないさ」
 ジルバスクに抱き止められ、シルクはもう一度微笑った。

 光を宿したままの瞳がそこにあった。

 そのことに何処か安堵している自分に気付き、ジルバスクは苦笑した。

 光を失わないでいてほしいと、がらにもなく、そう思う。

 ただ、いつか、刻(とき)が、別れを告げる。
 そのとき、自分はどうするだろうか。

 光を纏い続けるこの身体を、闇の世界に連れ去るだろうか。
 それとも、欲望に任せてこの身体を喰らい尽くすだろうか。
 あるいは――。

 ただ今は、今だけは。

 互いの姿を互いの瞳に映す。
 少しでも長く続くことを願って――。

       ……Fin.




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