Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



  


「……積もるかな……」
 雪が降り始めた空を見上げ、ザインは呟いた。
 隣で小さく頷いたフォードが白い息を吐く。

「……積もるようだと、仕事にならねぇよなぁ」
 ぼやいてみせるが、フォードからの返事はない。

「仕方がねぇだろう? 今日の仕事はなしだ。長もお許しになる」
 もう一度、確認するかのように呟き、ザインはフォードを促した。

 天候なんて言い訳に過ぎないことは自分でもよく分かっていた。
 これ以上、フォードにこの仕事をさせたくない。
 それがザインの本音ではあったのだけども。

 フォードと初めて会った日のことは、強烈に覚えている。
 出会った場所は、盗賊(シーフ)ギルドだった。
 人懐こい笑顔で笑う少年の仕事が、暗殺者(アサシン)であると知ったときは、我が目を疑った。
 それほど、フォードの瞳は澄んでいた。
 これまでザインが出会ったどんな人物よりも。

 それから、長の命令で、何度か一緒に仕事をこなした。
 そう、自分は紛れもなく、フォードの「同業者」なのだから。

 淡々と仕事をこなすフォードは、怖いくらい有能で。
 「暗殺人形」と呼ばれていることを知ったのは、ずっと後だったけれども。

 それでも――。
 一緒に仕事をする度、思わずにはいられない。

 これ以上、この仕事をさせたくない、と。

 降り積もる雪を真っ直ぐに見つめていたフォードが口を開く。
「……積もるなら、好都合じゃねぇか。降り続ける雪は足跡を消してくれる」
「そうじゃねぇ、フォード」
「…しっ」
 自分の本音を告げたくて、開いたザインの口はフォードの指に塞がれる。

「俺は……、」
 それでも続けようとした台詞は、フォードのきつい眼差しに阻まれた。

「他に選択肢はねぇ」
 短くそう告げ、雪の中にフォードが駆け出していく。

 その背を見失わないように、ザインも駆け出した。

 ただ、音もなく、雪が降り積もる夜だった。
                                ……Fin.




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