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ガリル王国――。
別名、魔法王国と呼ばれる国である。
国民全てが魔法使いであるとか、赤子でも魔法を使いこなすとか、そんな恐ろしい噂もあるが、実際のところは他の近隣諸国とあまり大差はない。ただ王国の中心に聳え立つ5つの塔の存在だけが異彩を放っている。そして、その5つの塔に囲まれた空間こそが、ガリル王国を魔法王国とする大きな要因――魔法学院である。
外界と隔絶されたその学院の中では、今日もまたさまざまな物語が繰り広げられている。
――さておき、今回の物語はその学院の隣、ガリル王城の一室から始まる。
「も、やめ……っ、」
全身の自由が奪われていく。
快楽を教えられた身体は、何1つ俺の思い通りには動かない。
両脚が開いてしまう。
腰が刺激を求める。
「嫌ではないでしょう? ティン殿下」
耳元で囁かれる声。
「こんなに腰を浮かして……」
くすくすと笑うその声が、俺の全てを暴いていく。
幾筋もの蒸気が立ち上るこの場所は、宮廷魔術師であるこいつの研究室。
中央に据えられた大きな机の上では、色鮮やかな薬品たちがこぽこぽと不気味な音を立てている。
蒸気の向こうに霞んで見えるのは、壁一面に並ぶ分厚い魔法書。乾燥させた薬草だか木の根だか、よく判らない薬品を詰めた瓶も見える。一角にはアルコール漬けになった蛇や蛙、何かの牙や角――。
何度来ても怖い空間だ。
それなのに俺は、どうしてもここに来るのを止められない。
「や……、っあ、」
部屋の片隅に置かれた、木製の机。
俺はいつもこの上で抱かれる。
まるで彼の研究対象か何かのように――。
肌蹴られた衣服の中に忍び込んだ指が、ゆるゆると移動していく。
快楽を引き摺り出しておきながら解放を許してくれないその動きが、たまらなくもどかしい。
「ふふ、随分と欲しがってらっしゃる……」
俺の身体を知り尽くした指が、的確に身体の変化を捉えていく。
それなのに――。
「早く……っ、」
切羽詰まった俺の瞳に、眼鏡の奥で笑うあいつの瞳が映った。
――酷い男だと、そう思う。
「どうなさればよいか、教えたはずですよ?」
頭上から落とされる台詞。
「ご存知でしょう? 殿下」
何て屈辱的なのだろう。
それでも――。
「……挿れ、て……。奥に……」
そう口にしてしまう俺は一体、何を考えているのか。
こいつの本名すら、知らないというのに――。
「――殿下のお望みのままに」
次の瞬間、求めていたものが与えられた。
「う……っ、あっ、」
ぐいっ、と、内壁を押し拡げられていく感覚。
それさえも必死に感じ取ろうとする俺は、馬鹿だ。
その背に縋りつくこともできない。
名前を呼ぶことさえできない。
両手で寝布を掴んだまま、開かされた唇から嬌声だけを零す。
「殿下のお身体は、後ろの刺激の方がお好きなようですね」
突き付けられる現実。
ぎしぎしと音を立て続ける机。
こいつは何故、俺を抱くのだろう。
俺は何故、こいつに抱かれるのだろう。
“恋人”だと、そう思っているのは、
――俺だけかも知れない。