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神殿での出来事から、数ヶ月が過ぎた。
あの日、世界を覆い尽くそうと拡がる闇に、人々は恐怖した。そうして、精霊石がもたらす一条の光に、願いを込めた。
今、この世界には光が溢れている。
闇の住人が残した傷跡は決して小さくはなかったが、それでも人々の顔には笑顔が戻ってきていた。闇の影響を最も強く受けたカルハドール王国では、国王が急死を遂げ、混乱が続いている。また、戦乱で騎士の多くを亡くしたラストア王国も、少なからず混乱の中にあった。
それでも、朝陽が昇り、やわらかな光の中、木々がきらめく。
その一つ一つを大切に想い、人々は新しい歴史に向かって、歩き出そうとしていた。
ただ、歩き出す刻(とき)の中、ジークだけが眠り続けていた。
ラストア王国にある、質素な造りの建物。ジークがかつて少年時代を過ごしたその場所で、ロイは眠るジークと刻(とき)を重ねていた。
窓辺から温かい朝陽の光が差し込む。ゆっくりと近付き、窓を開けると、ロイの頬をやわらかな風が通り抜けていった。
その時だった。
「……ロイ」
そう声にして、ジークが瞳を開く。
漆黒の瞳にやわらかな朝陽の光と、その朝陽を浴びて立つ見慣れたシルエットが映った。自分の名を呼ばれたそのシルエットがゆっくりと振り返る。
「ジーク」
綺麗な青灰色の瞳に、ジークの姿が映った。
もどかしげに数歩進んで、ロイが崩れ落ちるようにジークの胸元に飛び込んでくる。
「……随分と、待たせてくれた」
ジークの胸元に顔を埋めたまま、ロイがそうぼやく。
「……お互い様だろうが」
そう答えながら、ジークは流れる黒髪をそっと撫でた。
どのくらいそうしていただろうか、長い沈黙の後、ジークはロイを強く抱き締めた。ほぼ同時にロイが顔を上げ、片手でジークの頬に触れながら、ジークに口付ける。
それは、互いの存在を確認し合うような、そうして奪い合うような、長い長い口付けだった。
「……は、っ、……あ、」
口付けの間に漏れるロイの吐息が、次第に熱さを帯びてくる。その吐息すら奪うように、ジークは何度も口付けた。
「お前、傷は……?」
ロイの耳朶へと唇を移動させたジークが、耳元でそう問い掛ける。耳元で感じるジークの吐息に、ぞくりと身体を震わせ、ロイは小さく首を振った。
「……もう、待てないっ」
ロイの唇から、熱い吐息が漏れる。耳元で囁かれたその声に、ジークは一つ息を呑んだ。そのまま身体を反転させて、ロイの痩身を組み敷く。
漆黒の瞳に、ロイの姿が映った。青灰色の瞳が、ジークの姿を捉えていた。
「加減できねぇ」
小さく舌打ちして、ジークはもう一度ロイの唇を奪った。そのまま性急な動作でロイの衣服を肌蹴ていく。
鼓動が跳ね上がるのを感じた。
「……あ、」
ロイの声が上がる。肌蹴た衣服から覗くしなやかな大腿を開かせ、片方の膝裏を抱えるような体勢で、ジークはロイの後蕾に自分自身を押し当てた。ロイの身体がびくんと跳ね上がる。
「……ジーク」
少しだけ上ずった声が、ジークの名を呼んだ。しなやかな指先が、ジークの逞しい背中に辿り着く。
「ロイ」
そう名を呼んで、ジークは自分自身を侵入させた。
浅い息を吐きながら、ロイがその全てを受け入れる。
「……あ、あ、……ジー、ク」
最奥まで侵入すると一息吐く間もなく、我慢できないといった様子でジークは動きを再開した。
突き上げられる度に息を詰め、そうして引き抜かれる度に追い縋るようにロイが腕に力を込める。
「あ、あ、……ジーク、……ジー、ク」
掠れる声で、ロイは何度も何度もジークの名前を呼び続けた。そうすることで、今のこの瞬間を確かなものに変えていくかのように。
「……ロイ、愛している」
低い声でジークが告げる。
「離しゃしねぇ。もう二度と……っ」
そう言って、ジークはロイの最奥を突き上げた。身を震わせて、自分自身を解放する。
「……ジー、ク」
最後にもう一度名前を呼んで、ロイも熱い雫を放った。
少しばかりの間、意識を失くしていたのだろうか。
ロイはゆっくりと青灰色の瞳を開いた。そこがジークの腕の中であることに気付いて、ふわりと笑みを浮かべる。
「大丈夫か?」
心配げにそう問い掛け、ジークがロイを覗き込む。
――気付いたのだろうか……。
勘のいいジークである。気付かない筈がないと、そう思いながら、ロイはもう一度笑みを浮かべた。
ロイの右目は視力を失っていた。右耳は音を聞くことが出来ない。
右腕も右足も思うようには動かすことは出来なかった。
それでも――、
こうして触れ合える、
その奇跡に感謝したい。
そうロイは思った。
「お前を想う時、この想いは決して『悪しきもの』ではないと、そう信じることが出来た」
ジークの腕の中、ロイがそう告げる。
「だから、『聖剣』をこの胸に立てることが出来た」
「……ロイ」
「お前がいるから、俺がいる」
青灰色の瞳が、真っ直ぐにジークを見つめる。遠くで小鳥が囀る声が聞こえた。
「ジーク。愛している」
そう言葉にして、ふと赤面してロイはジークの胸に顔を埋めた。
そのロイをジークの腕がしっかりと抱き締める。
「愛している」
とそう応えながら。
精霊石に力を注ぎ込んだあの時、ロイは『消滅』を覚悟していた。
遠い昔、愛しい者たちを守るために、英雄ディーンがそうしたように――。
だが、ジークの想いが、アルフたちの光が、この世界に留まるだけの力をロイに与えてくれた。
そして――。
「……ヴァイラスが、救ってくれた」
最後にそう告げて、ロイは瞳を伏せた。
安らかな寝息を落とすロイの頬に、ジークが口付ける。そうして、ジークも瞳を伏せた。
後日、ジークはヴァイラスのことを聞いた。
精霊石の力なのか、ロイの想いなのか、それとも――。
いずれにせよ、ヴァイラスはその一命を取り留めた、とのことであった。
ただ、無垢な赤子へと、時間を逆行させて――。
「セレンで育てる」、そう言ってアルフが連れ帰ったのだと、そう聞いた時は少なからず驚いた。しかし、赤子とはいえ銀色の髪を持つヴァイラスにとっては、おそらくその方が良いのだろうと、そう思えた。あの美しい国で、愛されて育つことを心から願う。
幸いなことに、フォードの傷も癒えたらしい。「カルハドールからの手紙にそう書いてあった」、とロイが付け足した。送り主はハサードの名だった。
一人一人が、新しい道を、一生懸命に生きている――。
窓から差し込む太陽の光が、ロイの黒髪にきらきらと反射していた。開かれた窓から、心地よい風が流れてくる。
「ロイ」
そう名を呼ぶと、ロイがふわりと微笑む。
「ジーク」
と名を呼んで――。
今、この瞬間を心に刻み、新たな明日に向かって――。
互いの姿を瞳に映し、そうして二人は笑みを浮かべた。
『邪神降臨編』 完。
長い間お付き合い下さり、本当に本当にありがとうございました。
ロイとジークのお話、ようやく完結いたしました。
途中、高瀬自身にもいろいろあり、更新が滞り続け(書き始めたの3年前ですね…(汗))、本当にご迷惑をお掛けしました。ここまで辿り着けたのも、一重に皆さまの応援のお陰だと感謝しております。
では、恒例の雑談などをば(笑)。
ロイ:ようやく前向きになってくれた主人公です(^^) 今回のお話の中でもたくさんHシーンを披露してくれました(^^; 世の中のため、幸せになって欲しいものです。ジークが眠り続けた数ヶ月。実はロイ、懸命に看病をしていたりします。天邪鬼な彼はそんなこと死んでも口にしないでしょうが。その姿を、ジークのお師匠さんは見ていたりします(^^) うふふ。書いてみたいお話の一つ。あ、でもジーク寝てる…。ジークとロイの今後はまた機会があれば…(^^) >書きたいのか、高瀬。>ええ、もちろん(^^)
ジーク:今回は、まあ、いろいろとありました。彼が暴走してくれたお陰で、高瀬随分と苦しみましたよぅ。ま、ジークも人間ってことで(笑)。ロイが半身の機能を失った今、今後はジークが半身となってロイを支えていくのでしょうが。きっとロイは素直にジークに寄りかかってはくれないでしょうから、彼の苦労は続くのでしょう。でも、ま、幸せそうだから良し、ということで(^^)
フォード:今回、一番株を上げたのは彼ではないでしょうか。彼のお話はたくさんありますので、ご希望がございましたらそのうちにvv 最後に少し触れましたが、現在はカルハドールにおります。ええ、ハサードと(^^) 彼らのその後、見たいと思いません? 高瀬だけ?
ハサード:ある意味、一番人間らしい(?)彼。心の葛藤をもう少し上手く表現してあげたかった…。というわけで、続き読みたいと思いません? >書きたいのか、高瀬! カルハドールはそれはもう混乱しております。王位争いもありますし。兄弟たくさんですからねー。
アルフ:王サマ、アルフ。今回もたくさん泣きました(笑)。この子も人間らしい(^^) 実は唯一の妻帯者である彼は、ヴァイラスの養い親になるのでした。あ、驚きました? 王位継承後、結婚しています。相手は誰でしょう? アルフを見守ってきていた彼女です。そこら辺は次回作で。ちなみに次回作は、アルフの息子のお話になります。
オルト:もう少し盛り上がりたかったのですが、全体のバランスから縮小。不消化気味ですみません。ちなみにオルトの目的は、王の復活。王とはジルバスクのこと。彼はジルの配下でした。ジルを封印したディーンを憎み、その後封印を解かれたジルの心を奪ったシルク(ディーンの子孫でロイたちの先祖)を憎み…。機会を狙いつつ、憎しみを増大させてきた、実は不幸な人(魔人)。
ヴァイラス:彼の生き様、というか何というか、少しは伝わったかしら…? まさしく第2の人生。幸せになって欲しいものです。あ、次回作で出てきます、彼。
というわけで、本当に本当にありがとうございました。
次回作もご期待下さい(^^) 高瀬、精進いたします(^^)
ご意見ご感想など頂けると、とても嬉しいです♪
高瀬 鈴 拝。