Ring's Fantasia

ほんの少し羽根を休めて、現実(いま)ではない何処かに旅してみたいと想いませんか?



 SELEN 

 第3話 陵辱 


暗闇が訪れる。
それは、明けることのない夜の始まりのように感じられた。


 北の塔の最上階。
 鉄格子の嵌った窓から見える青白い月。
 真っ白な寝台の端に腰を下ろし、ロイはただ静かにその月を見上げていた。
 青白い月が、ロイの青灰色の瞳に映る。
 風が、ロイの蒼い黒髪を微かに揺らす。

 静かに階段を上る足音が聞こえてくる。

 その音に気付き、ロイは小さく息を呑んだ。

 すべて判っていた。

 その足音の主が誰であるかも。
 そして、自分の許を訪れる理由が何であるかも。


 鍵が外される金属の音が響く。
 程なくしてゆっくりと扉が開かれ、ダンフィールドが姿を現した。
 一瞬だけ扉の方に視線を送り自分の予想が外れていないことを確認すると、ロイは再び瞳を閉ざした。

「月が美しい夜だな、ロイ」
 ダンがゆっくりと寝台に近づいてくる。そしてロイの隣に腰を下ろすと、ダンは持参した酒をぐいっと呑み、ロイに真っ直ぐ視線を向けた。
「ロイ、これから自分の身に起こるだろうこと、理解しているか?」
 低く響くダンの声。
「……残念ながら」
 抑揚のない声で短くそう答え、ロイは顔を背けた。それを許さず、ダンが無骨な指でロイの白い顎を掴まえる。そのまま無理矢理自分の方に向かせると、きつい青灰色の瞳を見つけ、ダンは喉の奥で笑った。
「憎いか? ロイ。お前の父を殺し、お前が手にする筈だった国を奪い、お前の身体すら我が物にしようとしている男が」
 そう告げもう一度喉の奥でくくっと笑うと、ダンは一口酒を含んで自らの唇をロイの薄い唇に重ねた。拒絶するロイの頭を抑え込み、その口腔内に酒を流し入れる。咽込むロイの細い首筋に酒が零れ落ちていく。
 むせ返るようなきつい酒の香りに、ロイは何度か首を振った。
「飲め、ロイ」
「……お断りします」
 酒を差し出すダンの腕を払い、きつい眼差しでロイが答える。
「これからあなたがなさることは、酒の上での情事ではないでしょう?」
 ほんの少しだけ怒りを含んだその声に、ダンは苦い笑みを浮かべた。
「……そうだったな」
 自嘲気味にそう吐き捨てると、ダンは鍛えられた腕でロイの両肩を掴み、白い寝台の上に押し倒した。
「どんなに飾ってみても、嫌がるお前を力づくで抱くことに変わりはない」
 そのまま乱暴に、引き裂くようにロイの衣服を剥ぎ取る。
 ほんの少しだけ身を捩った後、一つ息を吐いてロイは全身から力を抜いた。
 ただ、その美し過ぎる瞳を、固く閉ざして。
 形の良い薄い唇を、色を無くす程きつく結んで。

 初めて与えられる感覚の一つ一つに、ロイの硬い身体が次第に熱を帯びていく。
 ダンは、慎重にロイの身体を開いていった。
 口にする残酷な台詞とは裏腹に、慈しむような優しさで。

「……んッ、」
 息を詰め、ロイが一際大きく背を反らせる。ダンの手の中に自らを開放させ、ロイは眉を顰めて小さく息を吐いた。

 少し汗ばんだ額に掛かる蒼い黒髪。
 長い睫を震わせながら伏せたままの青灰色の瞳。
 荒い呼吸をしている開かれた唇。

 月夜に浮かび上がるその姿は、ダンの想像を遥かに越えた美しさと艶かしさを纏っていた。
 愛しい者を見つめる眼差しでじっくりとその姿を見つめ、1つ息を吐いてからダンは再び残虐な笑みを浮かべた。

「……まだだ、ロイ」
 浅い息を整えようとするロイの耳元で、残酷さを帯びた声が告げる。そして後蕾に滑り込んでくるダンの指の感触に、ロイは無意識に身体を強張らせた。
「……はっ、……な、に……、」
 大きく何度も首を振り、きつく寝布を握り締める。身体を駆け上がるぞわりとした違和感に何とか堪えようと、ロイは唇を噛み締めた。固く閉ざした瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
「……うっ……、くっ、」
 無意識に全身で拒絶し続けるロイの姿を、陵辱されながらもなおも誇りと美しさを纏うその姿を、ダンの双眸が見下ろす。
「ロイ、」
 一際優しい声色で、ダンは腕の中の愛しい存在の名を呼んだ。
「……さっさと、好きになさるが、いい」
 それすら拒むかのように瞳を固く閉ざしたまま、ロイが言い放つ。
 そしてその身体は全身でダンの侵入を拒み続けた。
「身体を開かせる方法など、いくらでもある」
 ロイの耳元でそう囁くと、ダンは小瓶を取り出し中の液体をロイの後蕾に垂らした。得体の知れないその感覚にロイの身体が強張りを増す。
「じき慣れる……」
 そう告げ、ダンはロイの中を指で解した。何度も行き来させ、入り口を開かせていく。
「……ひっ、んっ……、はぁっ……、」
「慣れるまでいくらでも抱いてやる。いくらでも……、そう、いくらでもな」
 狂気を含んだ声でそう繰り返し、ダンはロイの両脚を掴んだ。開かせた内腿を舌で味わい、上ずった吐息を落とす。そして、
「……挿れてやるぞ、ロイ」
 興奮気味にそう告げて、ダンはロイの中に侵入した。
「ひっ、う、……やっ、」
 強張るロイの身体を折り、潤滑油で抵抗を失くしたその場所へ体重を掛けるように奥まで滑り込ませる。
「やぁ……っ、うっ、あっ、……やっ、うっ、……やぁ……っ」
 初めての感覚に大きく何度も首を振った。見開いた瞳から涙が零れ落ちる。
 拒もうとすると尚も存在感を突き付けてくるそれに身体の奥まで犯され、続け様に激しく動き始められ、ロイは掠れた悲鳴を上げた。

「ロイ、ロイ……ッ、」
 うわ言のように何度も名前を呼ばれる。
 そして、何度も侵入を繰り返された。

 朦朧としてきた意識の中、自分を犯すダンの姿を確認する。
 そして、目に映るもの全てを拒絶するかのように、ロイは再び瞳を固く閉ざした。

 ――アルフ、

 胸の奥にしまった大切なその名前が剥がされていくような錯覚に、閉ざした瞳から溢れる涙を止めることはできなかった。



Back      Index      Next